抄録
シロイヌナズナ植物体では、低温或いはアブシジン酸(ABA)処理によって凍結耐性の誘導が起こる事が知られており、その分子機構についても多くの研究が行われている。しかし、植物体が持つ複雑性(組織、器官、細胞における応答の相互作用)のため、細胞レベルにおける応答の詳細は不明のままである。本研究ではシロイヌナズナT87培養細胞を用いて、細胞レベルにおける低温或いはABAへの応答を解析した。その結果、誘導期の細胞でのみ、低温馴化2日で一過的に凍結耐性が-6oCから-10oCまで増大する事が明らかとなった。また、ABA処理においても、誘導期の細胞で一過的に凍結耐性が増大する傾向が示された。この低温馴化における凍結耐性の増大は、浸透濃度、糖含量、低温誘導性遺伝子の発現(COR15a, RD29A)といった植物体において凍結耐性と密接に関係することが知られている変動とは相関していなかった。本細胞の凍結耐性と相関する遺伝子をマイクロアレイで解析した結果、448個の遺伝子が3倍以上に誘導され、438個が0.3倍以下に抑制される事が分かった。更に、誘導された遺伝子の17%、抑制された遺伝子の14%が細胞で特異的に変動した事から、細胞レベルにおける低温・ABAシグナルの認識、シグナル伝達が植物体とは異なる可能性が示唆された。(本研究は21世紀COEプログラムの援助を受け行われた。)