抄録
我々はこれまで、水トレーサー([15O]water)とポジトロン検出器(BGO)を用いることにより、植物茎中おいてμlオーダーの水を定量的に追跡できる系を構築した。そして、ダイズ茎中の水動態を調べた結果、植物に取り込まれた水は導管中を輸送される過程において、導管外の水(茎組織に存在していた水)と交換を繰り返しながら上部へと輸送されていることが明らかになった。
そこで、今回は、水交換の機構を明らかにするため、蒸散流速度に対する漏出(交換)量への影響や、その交換効率を調べた。具体的には、播種から3週間目のダイズの根を切除し、茎より水トレーサーを加え、その取り込みを2点に設置したポジトロン検出器によりそれぞれ計測・定量した。その結果、導管輸送中に周辺組織と交換される水の割合は湿度が80 %(蒸散量は0.0084 g/cm2/h)の場合10~16%と高く、湿度が55%(蒸散量は0.014 g/cm2/h)の場合5~9%と低かった。しかしながら、実際に交換されている水量は蒸散速度によらずほぼ一定であることが明らかになった。現在、生育段階による交換量への影響や、また3H水とIPを用いることによりオートラジオグラフィーによる漏出部位(分布)を調べている。