抄録
樹木は永年性植物であるため、長期にわたるストレスへの様々な耐性機構を発達させていると考えられる。遺伝情報を担うDNAは、化学物質や活性酸素分子種、放射線等により塩基損傷や切断を受ける。動物等では、損傷したDNAは複数の修復機構により修復されることが報告されている。本研究では、樹木におけるDNA修復関連遺伝子の発現特性を解明するために、ガンマ線照射後のポプラ(Populus nigra var. italica)の葉からRNAを抽出し、RT-PCRサザン法により発現解析を行った。ポプラの苗木にガンマ線を照射した場合、10-20Gy(20時間の総吸収線量)ではほとんど成長に影響は無く、50-100Gyで成長阻害が見られ、150-300Gyで照射後4-10週間にほとんどの個体が枯死する。相同組換え修復に関与するRad51、および非相同末端結合修復に関与するDNA ligase IV、Ku70およびXRCC4は、50-300Gyのガンマ線照射により、線量依存的に遺伝子発現が誘導され、発現時間も線量に依存した。一方、グアニンの酸化的損傷によって生成する8-オキソグアニンの塩基除去修復に関与するOGG1は、ガンマ線照射により一過的に遺伝子発現が減少した後、再び上昇した。これは、機能の異なるDNA修復関連遺伝子の発現特性が多岐にわたることを示唆している。