日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
第47回日本植物生理学会年会講演要旨集
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常緑針葉樹は冬季の光ストレス回避に多くの労力を費やしている
*宇梶 徳史原 登志彦
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p. 214

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抄録
常緑針葉樹は、冬季の厳しい低温下に於いても葉を保持している。越冬下では光合成色素により吸収された光エネルギーの消費が極めて少ないため、細胞に致死的傷害を与える活性酸素が葉緑体内で発生し易い。この傷害を軽減するため、越冬中の常緑針葉樹は成長期とは異なる葉緑体を形成することにより冬季の光ストレスを回避していると考えられるが、その詳細な機構は未だ明らかでない。本研究では、分子生物学的アプローチにより針葉樹の越冬機構を明らかにする目的で、野外に生育するイチイ(Taxus cuspidata)から夏季及び冬季に針葉を採取し、作製したcDNAライブラリーから無作為に3.000クローンを選抜し、5‘末端からその塩基配列を決定した。EST塩基配列情報とタンパク質データベースを用いて、得られた遺伝子産物の機能予測を行ったところ、冬季(12月)の針葉から得られた約3割のESTが early light-induced proteins (ELIPs)と相同性を示した。ストレス関連遺伝子のみに限定すると、ELIPs遺伝子はその約8割を占めていた。ELIPs遺伝子をコードするESTが多量に同定される傾向は2003年、2004年に採取したイチイ冬季葉の双方で見いだされた。一方、夏季(7, 8月)の針葉で同定されたESTではELIPsは検出されなかった。以上の結果をもとに、樹木の越冬戦略の多様性に関して議論を行う予定である。
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© 2006 日本植物生理学会
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