抄録
植物のオゾン(O3)に対する応答のモデル植物としてO3感受性タバコ系統Bel-W3とO3耐性系統Bel-Bが広く用いられているが、両系統間でO3に対する感受性の差が生じるメカニズムには未だ不明な点が多い。本研究では、Bel-B、Bel-W3両系統由来の懸濁培養細胞を調製し、Ca2+感受性発光タンパク質エクオリンの遺伝子を導入した。まず、懸濁細胞にO3を暴露させ、エバンスブルー染色により両系統の死亡率を調べた。その結果、Bel-B細胞と比較してBel-W3細胞の方が高い死亡率を示し、細胞の状態でもO3感受性の差が存在する事を確認した。また、活性酸素種のスカベンジャー存在下でO3を暴露させると、Bel-W3細胞の死亡率が低下したことからO3により派生した活性酸素種がBel-W3細胞において細胞死を誘導していると考えられる。次に酸化刺激と還元刺激を両系統の細胞に処理し細胞質Ca2+濃度変化を調べた。特に還元刺激としてシステインを処理すると、Bel-W3細胞のみに急激で顕著な細胞質Ca2+濃度上昇がみられた。Ca2+チャネル阻害剤の効果からシステイン応答性の細胞質Ca2+濃度上昇には、酸化ストレスに応答することが知られる電圧依存性Ca2+チャネルTPC1の関与が示唆された。このシステイン応答性細胞質Ca2+濃度上昇は、僅かながら他のタバコ系統BY-2とイネの培養細胞においても確認できた。