抄録
植物の免疫活性化は、防御関連遺伝子の発現のみならず細胞死を伴うことがある。この細胞死には、病原体の全身感染を抑制する働きがあり戦略的細胞死と考えられている。このような植物免疫機構の解明を目的とし、恒常的な細胞死形質を示すシロイヌナズナ突然変異体、cad1(constitutively activated cell death 1)変異体を単離した。この変異体の原因遺伝子(CAD1)は、MACPF(Membrane Attack Complex and Perforin)ドメインを含むタンパク質をコードし、植物免疫を負に制御する新規因子と結論した。(Plant Cell Physiol. 2005, 46: 902-912)。
本研究では、cad1変異体において恒常的な細胞死形質やサリチル酸(SA)の顕著な蓄積が観察されたことからSAのシグナル伝達に着目し、遺伝学的解析を試みた。抵抗性遺伝子のシグナル伝達に必要なリパーゼ様タンパク質が欠損したpad4-1変異体およびサリチル酸合成酵素が欠損したsid2-1変異体についてcad1-1変異体との二重変異体をそれぞれ作製した。両二重変異体ではcad1-1変異体においてみられる細胞死形質、矮化形質、老化の進行が顕著に抑制された。また、pad4-1 cad1-1二重変異体においてはcad1-1変異体で観察されるSID2遺伝子の恒常的な発現誘導が抑制されていた。このような結果から、CAD1遺伝子はPAD4遺伝子を抑制することでSAによる細胞死活性化機構を制御していると結論した。現在、これらの変異体を用いて詳細な解析を行っている。