抄録
リンは植物の生長に必須の養分である。植物はリンが欠乏すると、植物体内の全リン蓄積量の約3割を占めるリン脂質を減少させ、これに伴い糖脂質の一種であるジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)などのリンを含まない脂質を増加させ、根の細胞膜などを質的に転換していることが報告されている。これまで、糖脂質生合成系がリン欠乏時に活性化されることは報告されてきたが、その前段階であるリン脂質の分解と糖脂質合成の基質であるジアシルグリセロール(DAG)の供給については不明であった。本研究では、主要膜脂質であるホスファチジルコリン(PC)等を分解してDAGを与える新規のホスホリパーゼC(NPC)ファミリーを真核生物で初めて単離し、その中からリン欠乏に応答する2つのアイソザイム、NPC4とNPC5を見出した。NPC4は細胞膜に局在しており、リン欠乏時に植物体で増加する総NPC活性のほとんどを担っていたが、npc4変異体でもDGDGの蓄積に変化はなかった。一方、NPC5はNPC活性自体は極めて低いものの、NPC4とは異なる細胞内局在を示し、npc5変異体ではリン欠乏時のDGDG蓄積が減少した。このことから、NPC4とNPC5はリン欠乏時にそれぞれ異なる機能を果たしていると考えられる。