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ユリ、チューリップの第一減数分裂中期の花粉母細胞を含む葯を笑気ガス(N2O)処理すると2倍性花粉が生じることがOkazaki et al.(2005)によって報告されている。しかし、どのような機構によって2倍性花粉が形成されるか明らかでない。そこで、本研究では無処理及び笑気ガス処理した花粉母細胞の減数分裂過程を、チューブリン蛍光抗体や酢酸オルセインによって染色・観察し、微小管や細胞分裂の状態について考察した。
無処理の減数分裂前中期の花粉母細胞では、プレプロフェーズバンドは形成されず、細胞中央に集合した染色体を微小管が取り囲んでいた。その後、中期には紡錘体が形成され、通常の減数分裂が進行した。笑気ガス処理直後の細胞では、紡錘体の崩壊が起こり染色体の極への移動が妨げられる一方、処理後数時間で隔壁は正常に花粉母細胞の中央で形成され、対合した染色体セットが一方の娘細胞へ取り残された。換言すれば、笑気ガス処理は微小管を脱重合し細胞分裂を阻害するが、隔壁形成が細胞分裂(染色体の極への移動)に先行して起こり非還元配偶子ができることがわかった。