抄録
色素体の起源と考えられるシアノバクテリアの細胞壁成分であるペプチドグリカンは、UDP-N-アセチルグルコサミンから9種類の合成系遺伝子によって合成される。緑色植物の葉緑体の包膜にはペプチドグリカン層は観察されていないが、我々はコケ植物ヒメツリガネゴケのEST及びゲノムデータベースから10種類全ての合成系遺伝子が保存されていることを見いだしている。合成系遺伝子のうちPpMurE及びPpPbp遺伝子をそれぞれ破壊したところ、いずれも野生型と比較し葉緑体数が減少し、巨大化した葉緑体や極小葉緑体が観察され、葉緑体の分裂異常が認められた。この表現型はペプチドグリカン合成系阻害剤であるβラクタム系抗生物質で処理した時と同様であった。これらの結果からヒメツリガネゴケの葉緑体の包膜内にペプチドグリカン層が存在し、葉緑体の分裂に関与していることが推測される。PpMurE及びPpPBP遺伝子を用いたGFP fusion assayは、実際に遺伝子産物が葉緑体に輸送されることを示した。さらにシアノバクテリアの一種アナベナのペプチドグリカン合成系遺伝子であるAnaMurEをヒメツリガネゴケmurE破壊株に導入したところ、葉緑体分裂異常の表現型が回復した。これらのことから、アナベナのMurEの機能はヒメツリガネゴケでも保存されていることが明らかとなった。