抄録
ニコチアナミン(NA)は植物に広く存在する金属のキレーターであり、植物体内の金属輸送や金属の恒常性の維持に関係すると考えられている。ムギネ酸類(MAs)はイネ科植物に特異的な金属のキレーターであり、NAを前駆体として合成される。MAsは根から根圏へ分泌され、金属キレート複合体として再吸収される。さらに根圏に分泌されないNAと同様に植物体内においても金属輸送を行うと考えられる。本研究では、イネの生殖成長および胚発生過程におけるNAおよびMAsの役割を明らかにすることを目的とした。
生殖器官および種子への鉄の輸送形態を探るため、Fe(II)-NA, Mn(II)-NA錯体のトランスポーター遺伝子をコードするOsYSL2遺伝子、Fe(III)- デオキシムギネ酸(DMA)錯体のトランスポーターをコードするOsYSL15遺伝子、Fe(II)のトランスポーターOsIRT1遺伝子の花や種子における発現を解析した。また、放射性同位元素を用いて金属、NAおよびDMAの花や種子への移行を調べた。生殖成長および種子成熟期における金属栄養関連の遺伝子発現を調べるため、マイクロアレイ解析を行った。さらに完熟種子の部位別の金属濃度、NAおよびDMA濃度を測定した。これらの結果から、イネにおいてNAおよびDMAのいずれもが種子への金属輸送に重要であることが示唆された。