抄録
植物は移動することができないので、生育環境に合うように、形態学的・生理学的特性を変化させ、効率良く資源を獲得している。多くの植物が、生育温度に応じて光合成速度の最適温度を変化させるのは、その一例である。この現象は「光合成系の温度馴化」と呼ばれ、遺伝子発現の変化を伴う数々の生理学的反応が同時に起こる複雑な過程である。
我々は、光合成速度の最適温度が変化する一連のメカニズムを明らかにするために、栽培温度の異なるホウレンソウ葉を用いて、生理生態学的・生化学的な研究を行っている。これまでに、光合成速度の最適温度が変化するとき、1)光合成速度を律速する2つの部分反応[RuBPカルボキシレーション反応とRuBP再生産反応(=電子伝達反応)]のバランスが変化すること、2)高温におけるRubisco活性化率の温度依存性が変化すること、3)Rubisco kinetics特性そのものが温度馴化することを示した。また、二次元電気泳動解析の結果、Rubisco kinetics特性の温度馴化においては、Rubisco small subunitが重要なkeyを握っていることを示した。本講演では、これらの研究結果をふまえて、光合成系の温度馴化メカニズムについて議論する。