抄録
フィトクロムは植物の様々な光応答に関わる光受容体だが、近年ではバクテリアのゲノムからも多くのフィトクロム様遺伝子が見いだされている。フィトクロムの特徴として、保存されたGAFドメインに開環テトラピロールを共有結合し、赤色光吸収型(Pr)と遠赤色光吸収型(Pfr)の間を可逆的に変換する性質が知られている。
単細胞性シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803は光の方向に応答した運動性(走光性)を示すが、光の方向へ向かう正の走光性にはフィトクロム様光受容体PixJ1が必至である。シアノバクテリアから単離したPixJ1タンパク質は開環テトラピロールを共有結合し、青色光吸収型(Pb型、最大吸収435 nm)と緑色光吸収型(Pg型、最大吸収535 nm)の間を可逆的に光変換する新奇の光受容体である。この性質は大腸菌を用いた赤色光を吸収する開環テトラピロールPCBとの共発現系によって再現した。PixJ1は、PCBまたはPCB様の発色団を結合し、π電子共役系をねじ曲げることによって吸収を青色光領域へシフトさせると考えられる。
GAFドメインの系統解析は、PixJ1が赤/遠赤色光吸収型のフィトクロムとは異なる枝に分類されることを示している。さらに、GAFドメインを持ち新規性のある吸収特性を示すシアノバクテリアの光受容体候補(cyanobacteriochromes)の存在が示唆された。