抄録
最近、3つのグループより3.2−3.8Å の分解能で好熱性シアノバクテリアの光化学系IIコア蛋白質のX線結晶構造が明らかにされた。このことは、光化学系II研究が、その構造に基づいて、より分子論的に議論され得る、新たな展開期に入ったことを意味する。しかしながら、実際に光化学系IIにおける電子移動、プロトン移動、とりわけ酸素発生反応の分子メカニズムを解明するためには、X線結晶解析からの構造情報だけでは不十分であり、プロトンの位置や、水素結合構造など、より精密な分子構造と、その反応に際しての構造変化を検知できる他の分光学的手法が必要である。フーリエ変換赤外分光法(FTIR)は、そのような目的に最も適した手法である。電子伝達コファクターや、アミノ酸側鎖、蛋白質骨格に特有な赤外吸収バンドを解析することにより、それらの分子構造、すなわち、化学結合や水素結合の有無や強度を調べることができる。また、光合成蛋白質では、光反応による微少スペクトル変化を観測することにより、各コファクターの構造や反応の情報のみを抽出して得ることができる。このような、X線結晶構造に基づいた、FTIR法による光化学系II蛋白質の構造と反応メカニズムの研究を、酸素発生マンガンクラスター、クロロフィル分子(P680, ChlD1, ChlZ)、キノン電子受容体(QA, QB)などを例に挙げて紹介する。