抄録
進化・生態ゲノム学は、分子遺伝学と野外の生態・進化研究を統合することで、生き物がなぜかくもうまく適応して生きているのかという生物学の根元的な問いに分子レベルから答えようとしている。基礎となるデータは1つの種の複数個体のゲノム情報であり、モデル生物シロイヌナズナやイネではSNPプロジェクトやリシークエンシングからのデータが蓄積している。この情報を活用するために、2つの方向性の統計的手法の開発が進められている。まず、生態学的な表現型を担う遺伝子の単離の手法である。例として、組換え近交系統と連鎖不平衡解析を利用した、生殖隔離の研究を紹介する。さらに重要なのが、自然選択を検出する手法である。これにより、ある形質が自然界での生存・繁殖に役に立つ適応であることが示せる。例として、ダーウィンが提唱した自殖適応仮説を、シロイヌナズナのpseudoSCR1遺伝子を用いて検証した研究を紹介する。展望として、野外で個体追跡が容易だという植物の長所、実験室環境と自然環境の相違などについて触れたい。