抄録
植物はその生活環の中で様々な形で酸化ストレスを受ける危機にさらされている。酸化ストレスは、オゾン暴露や強光などの非生物的な要因に加え、病虫害等の生物学的な要因によっても容易に引き起こされる。このような酸化ストレスに対する応答において、ジャスモン酸などの膜脂質由来の酸化脂質(オキシリピン)がシグナルとして機能していると考えられている。これは酸化ストレスによって植物が損傷を受ける主要な場所の一つが膜脂質であることを考えると、極めて合理的なメカニズムであると言えよう。我々は、ジャスモン酸がオゾン暴露時において抗酸化物質代謝系の活性化を促し、オゾンストレスに対する耐性に寄与していることを明らかにした。実際、ジャスモン酸が合成できないopr3変異体では、オゾンに対して感受性になり、抗酸化物質代謝系の活性化が抑制される。このことは、オゾンストレスに対する適応にジャスモン酸の合成が不可欠であることを示している。また、ジャスモン酸生合成の中間体である12-オキソフィトジエン酸(OPDA)が、ジャスモン酸とは異なるオキシリピンシグナルとして傷害応答に寄与していることも分かった。OPDAで特異的に誘導される遺伝子ORGはジャスモン酸では誘導されず、また、その誘導はジャスモン酸情報伝達において中心的な役割を担っているCOI1に非依存的である。本発表では、酸化ストレス時におけるオキシリピンシグナルの役割について考察する。