抄録
植物は環境に適応するために様々な適応機構を有している。例えば、光化学系IIでは光合成電子伝達に利用できない光エネルギーは熱として安全に散逸される(NPQ)。しかし、植物の生育する野外環境は常に変動しており、単純ではない。そこで本研究では、この変動する環境に対して植物がどのように適応しているかを明らかにすることを目的とする。
本研究では主に温度環境と光環境の変動に注目し、シロイヌナズナを用いて光合成電子伝達が変動する環境への適応できない変異株の単離を試みている。温度環境として連続低温下(10℃)と、低温と常温(23℃)の温度変動を持たせた2つの条件を設定し、一週間処理を行った。NPQの光強度依存性は10℃一定条件下で生育させた野生株では変化は見られなかった。しかし温度変動条件下で生育させた野生株ではNPQが弱光域から誘導されるようになり、一定温度で生育させた植物とは異なる適応戦略をとることが明らかになった。これらの結果を用いて、温度変動に応答できない変異株の単離を行った。得られた変異株の解析結果について報告する。
また、光環境についても連続光と光変動(明期/暗期=2時間/2時間)の条件を設定し3日間処理を行った。その結果、温度処理と同じようなNPQの光強度依存性に対する効果が見られた。この結果は植物が変動する環境に対して同じような適応戦略をとっていることを示唆している。