抄録
種々の生物が、炭素骨格やエネルギー源となる利用可能な糖のレベルを検知し、その変動に応じて酵素活性のみならず、遺伝子発現パターンを変動させて細胞活動を至適化する複数の機構を備えている。種子植物は、種子を作らない下等植物の発生プログラムの途中に、独自の種子成熟プログラムを挿入させて、栄養貯蔵能と胚の休眠能を獲得して生存率を向上させたと推定されている。シンクとしての種子形成は、大きく、同化産物を細胞増殖に利用する前貯蔵期から、同化産物を栄養貯蔵物質に変換して集積する貯蔵期へと進行する。マメ科植物では、この過程は高いヘキソース/ショ糖比から高いショ糖/ヘキソース比への転換と並行して進行する。休眠を経た種子は、発芽と共にソースへと転換し、初期栄養生長を支える。種子の形成から発芽に至る過程では、植物ホルモンの働きに加えて、糖に応答した遺伝子発現制御が様々な形で重要な役割を担うと推定される。我々は、糖誘導性発光レポーター遺伝子の発現などを指標にシロイヌナズナの糖応答性突然変異株を単離し、糖応答性遺伝子の発現に関わる因子を同定してきた。ここでは、種子成熟過程でショ糖炭素源の油脂への分配の制御に関わると推定されるAP2型転写活性化因子ASML1/WRI1、それに発芽後の種子成熟プログラムの抑制に関わると推定されるB3-EAR転写抑制因子HSI2・HSL1の機能を中心に、解析の現状を概観する。