抄録
シダ植物にはヒ素を高濃度に集積する種が存在し、ヒ素汚染土壌のファイトレメディエーションにおける利用が期待されている。ヒ素は土壌中では主に五価のヒ酸の形態で存在しており、植物に吸収されると体内でヒ酸還元酵素(AR)により三価の亜ヒ酸へと還元される。この亜ヒ酸をγグルタミルシステイン(γEC)、グルタチオン、フィトケラチン(PC)といったチオールと結合させることにより無毒化が行われると考えられている。γECはシステインにグルタミン酸が結合したペプチドであり、グルタチオンおよびPC合成の前駆物質であるため、γECの合成酵素はヒ素の無毒化に大きな役割を持っていることが予想される。そこで、ヒ素の超集積植物として最もよく知られているモエジマシダのヒ素無毒化メカニズムを、γEC合成酵素の働きを中心に解析した。
他種植物の既知のγEC合成酵素アミノ酸配列から作成したプライマーを用い、ヒ素処理をしたモエジマシダからRNAを抽出した。そのcDNAを鋳型としてPCRを行い内部配列を増幅し、RACE法により全長の配列を決定した。このγEC合成酵素に加え、これまでにクローニングされているPC合成酵素およびARの遺伝子発現量に与えるヒ素の処理濃度、処理時間、ならびに形態(ヒ酸、亜ヒ酸)の影響を調べた。さらに植物体のヒ素吸収量、チオール化合物(γEC、グルタチオン)の含有率も測定し、モエジマシダのヒ素無毒化メカニズムを総合的に考察する予定である。