日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
第49回日本植物生理学会年会講演要旨集
選択された号の論文の1105件中1~50を表示しています
  • 藤田 清仁, 太田 にじ
    p. 0001
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    光合成において二酸化炭素の固定は酵素RuBisCOによって行われており、構成タンパク質は遺伝子rbcL, rbcSにコードされている。植物が持つRuBisCOは進化の過程で大きく二つに分岐したことが報告されている。一つは細胞内共生したシアノバクテリア由来のRuBisCOを持つタイプであり、緑藻・緑色植物がこれにあたる。もう一つは細胞内共生後、シアノバクテリアのrbcL, rbcSが遺伝子水平移動によりβ―プロテオバクテリアのrbcL, rbcS, cbbXに置き換わったもので、紅藻・褐藻がこれにあたる。
    遺伝子水平移動により獲得されたcbbXは、色素体ゲノム上でrbcL-rbcSの下流に存在しており、またプロテオバクテリアの研究では光合成独立生育に必須であることが示されている。このことからRuBisCOとの関連性が推測されていたが詳しい機能解析はされていなかった。
    Cyanidioschyzon merolaeは紅藻に属し、2003年に色素体ゲノムが決定されrbcL-rbcSの下流にcbbXの存在が報告されていた。2004年に紅藻類では初めて決定された核ゲノム配列から核にも単独でcbbXが存在していることが報告された。本研究ではシゾンの核、色素体ゲノムに存在しているcbbXの明らかにした機能と関連性から、紅藻独自のRuBisCO調節機構について考察した。
  • 工藤 久幸, 山本 義治, 中邨 真之, 大谷 将人, 長谷川 桂子, 小保方 潤一
    p. 0002
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    核遺伝子群の転写は、転写量の調節を行う上流調節領域と、転写開始の位置や方向を決定するコアプロモーター領域によって、二重に制御されている。コアプロモーター領域には、一般にTATA ボックスやイニシエーター (Inr) 等のシス因子が存在しており、それらの働きによって転写開始位置が決定されると考えられてきた。しかし、高等植物の光化学系I核遺伝子群では、その殆どがコアプロモーター領域に既知のシス因子を欠いており、また、数十塩基対の範囲にわたって複数の転写開始点が出現するという著しい特徴がある。このため、光化学系I核伝子群では、TATA ボックスやイニシエーター (Inr)に代わる未知のシス因子が、転写開始の位置を決定していると推測される。本研究では、この未知のシス因子を探るため、シロイヌナズナを材料に、種々のキメラプロモーターと形質転換植物を用いた解析を進めた。その結果、転写開始点の下流域に、転写開始点の出現位置の決定に関わるシス因子のあることが示唆された。
  • 丸山 明子, 井上 恵理, 高橋(渡部) 晶子, 片岡 達彦, 斉藤 和季, 高橋 秀樹
    p. 0003
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    シロイヌナズナの低親和型硫酸イオントランスポーターSULTR2;1は、維管束系で発現することから、植物体内の硫酸イオンの分配に働くと考えられている。一方、SULTR2;1の根における遺伝子発現は環境中の硫酸イオン濃度の減少(-S)に応答して増加し、地上部では逆に減少する。私たちは植物の-S への適応機構に果たすSULTR2;1の役割を明らかにすることを目的として、SULTR2;1の硫黄栄養応答領域の同定を試み、根におけるSULTR2;1の-S応答には3’非転写領域が必須であることを見出した。また、SULTR2;1-5’領域:: GFP:: SULTR2;1-3’領域を持つ植物では、維管束系のみならず根の皮層でも-Sに応答した顕著なGFPの蓄積が認められた。さらに、SULTR2;1の3’領域にT-DNAが挿入されたシロイヌナズナ(tKO)では、SULTR2;1の地上部における-S応答は変わらず、根における-S応答のみが失われていた。野生株、SULTR2;1欠損変異株(KO)、tKOを用いて、+S、-S条件における硫酸イオンの吸収と地上部への移行を比較したところ、野生株と比べて、KOではどちらの条件においても吸収・移行が有意に減少するのに対し、tKOでは-S条件においてのみKO様の表現型を示すことが明らかとなった。これらの結果から、SULTR2;1は環境中からの硫酸イオンの吸収と根から地上部への硫酸イオンの移行の両方に働いており、-S条件下においては3’非転写領域を介した根における発現上昇により、その活性が上昇すると推定される。
  • 春山 誠, 大谷 美沙都, 杉山 宗隆
    p. 0004
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    シロイヌナズナの突然変異体srd2は、胚軸の脱分化、シュート再生、根の発達などに強い温度感受性を示す。その責任遺伝子SRD2はsnRNA転写活性化因子をコードしており、snRNA蓄積レベルの調節において重要な役割を果たしている。
    SRD2遺伝子の-1,908~+152の領域(+1は翻訳開始点)をGUS構造遺伝子につないで作成したレポーターは、芽生えにおいては、茎頂、根端、根の中心柱で強く発現するが、胚軸では発現しない。レポーター株の胚軸断片を培養すると、切り口近傍などに傷害応答と思われる発現が広く誘導され、中心柱では脱分化に関連した著しい発現上昇が見られる。このレポーター遺伝子の上流部を順次削っていくことで、SRD2発現のシス制御領域の絞り込みを行った。その結果、-1,214より上流の領域を削っても、芽生えにおける発現パターンは影響されないことが判明した。またこのとき、胚軸断片を培養して脱分化を誘導すると、中心柱での発現上昇は起きたが、他の組織での広範な発現は観察されなかった。これより、SRD2の発現制御は主に-1,214以降の領域が担っているが、傷害応答はその上流に制御域があることが示唆された。
    一方、SRD2遺伝子の発現調節機構を遺伝学的に解析するため、SRD2::GUSの発現パターンに異常を示す変異体の単離も並行して進めている。その結果についても併せて報告する予定である。
  • 小島 雄介, 森下 輝之, 西澤 彩子, 薮田 行哲, 重岡 成
    p. 0005
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    これまでに我々はシロイヌナズナの強光ストレス応答機構を解析する中で、強光応答性のNAC転写因子(High-light inducible NAC:HLN)を同定した。NAC転写因子は植物に特異的な転写因子で、N末領域にはDNA結合に関与するNACドメインが存在し、C末領域には転写活性化領域を含んでいる。興味深いことに、HLNはC末端に膜貫通ドメインを有していた。またHLN過剰発現株において通常条件下では標的遺伝子の誘導が認められなかった。以上のことから、HLNは通常条件下では膜に局在しており、ストレス条件下では膜から解離し、核に移行して機能していることが考えられた。本研究では、強光ストレス条件下におけるHLNの転写活性化機構の解析を試みた。
    HLNの細胞内局在性を検討するため、CaMV 35Sプロモーター制御下でHLN全長、膜貫通領域欠失型(ΔTM)のN末端にGFPを融合させたコンストラクトを作出し、タマネギ表皮細胞に導入した。その結果、全長HLNは細胞全体に、HLNΔTMは核に局在することが明らかとなった。また、HLNの転写活性化能を検討したところ、HLNΔTMが転写活性化能を有していたことから、膜から切り離されたHLNが転写因子として機能することが示唆された。現在、HLNのストレス条件下における局在の変化および、HLNタンパク質の修飾に関わる因子についても検討している。
  • 青木 誠, 宇野 知秀, 金丸 研吾, 山形 裕士
    p. 0006
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    これまで我々は、ダイズearly light-inducible protein (ELIP) 遺伝子の発現が青色光/UV-A特異的に光誘導されること、および、その光誘導発現にはELIP遺伝子プロモーター中に存在するGT-1ボックス様配列 (GTGTGGACAA)とGボックス様配列 (CCACGTGA) の2つのシスエレメントが必要かつ十分であることを報告した。本研究では、これらのシスエレメントに結合する転写因子を解析した。まず、プライマー伸長法により、ELIP遺伝子の開始コドンより222塩基上流のCを転写開始点と決定した。次に、ダイズの転写因子GmGT-1 cDNAをPCR法でクローニングし、大腸菌中で発現・精製した。さらに、組換えGmGT-1のELIP遺伝子プロモーターへの結合をゲルシフト分析により解析した。GmGT-1は377アミノ酸から成り、トリヘリックス構造のDNA結合領域を持つ他の植物由来GT-1と高い相同性を示した。組換えGmGT-1タンパク質は、ELIPプロモーター中のGT-1ボックスおよびGボックスを含む領域に強く結合した。これらの結果より、GmGT-1はELIP遺伝子の青色光/UV-A誘導発現に関与することが示唆された。
  • 城所 聡, 圓山 恭之進, 中島 一雄, 井村 喜之, 藤田 泰成, 刑部 祐里子, 篠崎 一雄, 篠崎 和子
    p. 0007
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    植物の持つ転写因子DREB1/CBFは、DRE/CRT/LTREと呼ばれるシス配列に特異的に結合し、低温・乾燥・高塩といったストレスへの耐性獲得に関わるストレス誘導性遺伝子群の発現を制御する。シロイヌナズナにおいて、DREB1A, 1B, 1C遺伝子の発現は低温条件下で一過的に誘導される。これらのプロモーター領域の相同性が非常に高いことから共通の転写制御機構を持っていると考えられた。そこで、本研究ではDREB1の発現制御機構について解析を行なった。
    DREB1Cのプロモーター配列をつないだGUS遺伝子を導入した形質転換植物の解析により、シス配列を含む67bpの領域を同定した。この領域には、転写を正に制御する配列と、負に制御する配列の両方が含まれていた。そこで、酵母のワンハイブリッド法により、この配列に結合するタンパク質をコードするcDNAクローンを単離した。このcDNAクローンはbHLHタイプの転写因子ファミリーに属するbHLH072遺伝子をコードしていた。bHLH072はフィトクロムと相互作用を持つbHLH型転写因子PIL/PIFファミリーと相同性を持っていた。また、形質転換植物体を用いた解析の結果、bHLH072遺伝子は葉で恒常的に発現し、タンパク質は核に局在した。さらに、トランジェント発現系による解析から、bHLH072は転写抑制能を持つ転写因子であることが示された。現在、我々はbHLH072を過剰発現する形質転換植物体及びT-DNA挿入変異植物体を用いてDREB1の発現を解析している。
  • 池田 美穂, 光田 展隆, 高木 優
    p. 0008
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    植物においては、転写レベルの遺伝子発現調節が発生や代謝の制御に重要な役割を担っていることが知られている。シロイヌナズナには転写因子をコードする遺伝子が約2000個存在しているが、その中には転写活性化因子のみではなく、転写抑制因子がかなりの割合で含まれ、植物特有の遺伝子発現制御機構には転写抑制因子が大きく関わっていることが示唆されつつある。植物の転写抑制因子に共通する転写抑制ドメインとしては既にEARモチーフが同定され、多くの転写因子ファミリーに存在することが知られている。
    今回我々は、ABI3 ファミリーに属する転写因子の解析から、新たな転写抑制因子郡を同定した。この転写因子郡にはEAR-motif類似配列が存在せず、これまでにない新たなリプレッションドメインが保存されていた。この新規のモチーフを含む15アミノ酸残基をCUC2またはAG転写因子のC末端に直結したところ、これらの遺伝子の欠損株と同様に子葉の融合、あるいは、八重咲きの形態が観察された。このことから、このドメインはEAR-motifと同様に単独で転写抑制活性を付与することが確認された。また、このドメインはABI3 ファミリー以外にもHSFを含む複数の転写因子ファミリーに存在していた。本大会ではこのドメインを有する複数の転写因子ファミリーの転写抑制活性の有無、および、一つの転写抑制因子を例として転写抑制因子の生体内での機能についても報告する。
  • ラマスワミ マニメカライ, 大岡 久子, 佐藤 浩二, 永田 俊文, 土井 考爾, 保坂 アエニ, 秋山 仁美, 田崎 公久, 菊池 尚志
    p. 0009
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    我々はNAC(NAM/ATAF/CUC)タイプの転写遺伝子ファミリーについて網羅的な解析を行ってきた。最新の完全長cDNA、EST配列データによるゲノムマッピングの結果、イネゲノムには124のローカスが存在すること、そのうちの112にcDNAがマッピングされることが明らかとなった。tandem duplicationとsegmental duplication による遺伝子重複の過程、遺伝子個々の配列を基にしたphylogenic treeの構築による遺伝子のグルーピング結果を照合するとphylogenic treeにおける大きなクラスターは遺伝子重複の過程と大きく関係していることが明らかとなった。phylogenic tree構築で得られたサブグループ間において共通のドメイン構造の存在や63個のローカスをカバーする22Kオリゴアレイを用いた各種ストレス応答反応におけるNAC遺伝子発現の変化のデータから、ストレス応答型のNACとphylogenic treeにおけるサブクラスの対応等興味深いデータが得られた。また15のNAC遺伝子座において選択的スプライシングによる転写後発現制御機構が見いだされた。
  • 永田 俊文, 佐々木(保坂) アエニ, Ramaswamy Manimekalai, 土井 考爾, 佐藤 浩二, 菊池 尚志
    p. 0010
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    各種生物における遺伝子発現制御の特徴を解明する目的で、転写因子の比較解析を、H.sapiens=2689、C.elegans=998、D.melanogaster=1395、S.cerevisiae=322、N.crassa=445、A.thaliana=2465、O.sativa=2326、E.coli=271について行った。その際、従来の遺伝子ファミリーの種類及び数の比較に加えてDNA結合領域の特徴による分類カテゴリーによる比較も行った。動物でZinc-coordinating DNA結合構造を持つ転写因子が特異的に増幅している一方で、植物では更に様々なDNA結合様式(basic domain=bZIP及びHLH; HTH=HD, Myb, NAC; beta-scaffold factor=MADS,CCAAT factor; Antiparallel beta sheet domains = AP2/EREBP,B3)も利用されていることが判明した。植物間の比較では、シロイヌナズナは BED, bHLH, Co-like ZF, C2H2 ZF, Zz ZF, RAS ZF, DHHC, HD, LIM, Trihelix, PcG, AS2, PAZ,PLATZ が、イネでは bZIP, GRAS, YABBY ZF, Ring finger ZF, WRKY ZF, NAC, AP2/EREBP, B3,TUBBYが他者より多くの遺伝子種を持っていた。完全長cDNAのデータ等を用いた染色体へのマッピングによるAlternative splicing及びGene Duplicationの解析より、植物ではC2H2, WRKY, bHLH, MYB, NAC, B3がSegmental duplicationにより、 MADS, HDがTandem duplicationにより、 Ring finger, AP2/EREBPがAlternative splicingにより転写因子タンパク質の増幅を生じていることが明らかとなった。
  • 梅村 佳美, 平津 圭一郎, 高木 優
    p. 0011
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    これまでに本研究グループでは、シロイヌナズナ転写抑制因子群のC末端に高度に保存されているEAR(ERF-associated Amphiphilic Repression)モチーフと呼ばれる配列が強力な転写抑制ドメインとして機能することを明らかにしてきた。驚くべきことに、このEARモチーフ中に含まれる“XLxLXL”という6残基のみの短い配列が、強力な転写抑制能を持つことが示された。これまでにXLxLXLのように数残基のみで強力に機能する転写抑制ドメインが同定されたという報告は無い。またEARモチーフは植物にしか保存されていないため、植物が他の生物にはない独自の転写調節機構を発達させたものと思われ、このEARモチーフを介した転写抑制のメカニズムの解明に興味がもたれている。EARモチーフは、6残基のみで強力な転写抑制機能を発揮するが、この6残基のみの短いペプチド鎖が、酵素活性等を有し直接転写抑制に作用している可能性は低い。したがって、転写を抑制するためには他の因子、例えばコリプレッサーが必要であるものと推測される。そこで我々は、酵母two-hybridシステムを用いたスクリーニングを行い、EARモチーフと相互作用する因子を同定した。本研究では、同定した因子について個々に解析を行い、それぞれの因子がEARモチーフを介した転写抑制機構にどのように関わっているのかについて議論する。
  • Sergey Khorobrykh, Yoko Iijima, Daisuke Shibata, Mano Jun'ichi
    p. 0012
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    Lipid peroxide-derived aldehydes produced in plants under various environmental stresses are potentially cytotoxic. Production of aldehydes inside chloroplasts can inhibit photosynthesis, in particular, at the Calvin cycle. Because the reactivity of aldehydes depends on their structure, it is important to determine the chemical species occurring in chloroplasts and their contents. In this study, we analyzed profile of aldehydes in spinach chloroplasts. LC/MS analysis showed that chloroplasts without stress treatments contained the following aldehydes at 10-600 μM; (i) C6-aldehydes (3Z)-hexenal, (2E)-hexenal and n-hexanal, (ii) α,β-unsaturated aldehydes such as crotonaldehyde and 4-hydroxy-2E-hexenal, (iii) short chain aldehydes formaldehyde, propionaldehyde and acetaldehyde and (iv) supposedly several oxo-fatty acids. Because these aldehydes were mainly distributed to thylakoids, their concentrations can reach mM levels in the membrane. In model experiments, it was found that formaldehyde, propionaldehyde, crotonaldehyde, butyraldehyde, (3Z)-hexenal, 4-hydroxy-2E-nonenal are produced from linolenic acid via its oxidation by singlet oxygen.
  • 佐藤 直樹
    p. 0013
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    遊泳性の微生物の培養液では,細胞が水面に集合することで密度の不安定性を生じ,それによって対流が起きることが知られている。これは生物対流と呼ばれている。生物対流により,培養液に可視的なまだら模様や縞模様が形成される。1961年にこの名称が提唱されて以来,おもに流体力学の分野で生物対流によるパターン形成のモデル計算が行われてきたが,基本的には,細胞はまっすぐに運動する粒子で,細胞間相互作用がない,という前提で計算されてきた。しかし,生物対流の形成の際に,細胞がどのように運動しているのかを直接観察した研究はない。今回,側面観察顕微鏡を製作し,これを用いてクラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii)の細胞が作る生物対流の観察に成功した。細胞はらせん運動をしながら光に集まり,密集した状況では正常な遊泳が難しくなった。その後,激しく落下する部分が縦縞としてあらわれた。落下する細胞は塊をなしており,普通に泳ぐ細胞とは全く異なる動きを示した。さらに細胞株によって対流ができにくいものもあることがわかった。これらの観察から,クラミドモナスの生物対流には細胞の性質や細胞間相互作用が大きな役割を果たしていることが推定され,単に遊泳細胞の流体力学で考えられる以上の生物学的な内容が含まれることがわかった。
  • 岩崎 郁子, 小村 理行, 佐藤 圭介, 半場 祐子, 鈴木 英治, 佐藤 朗, 北川 良親, 原 光二郎, 小峰 正史, 山本 好和, 伊 ...
    p. 0014
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    地衣類は菌類と藻類の共生体であり、乾燥耐性能を持つものが多く、環境の状態を知る「指標生物」と言われる。シアノバクテリアを共生藻(以下、共生ラン藻)とするモミジツメゴケ(Peltigera polydactylon)の共生ラン藻は、地衣体の上皮層近くの藻類層に分布し、光合成を行うのに都合の良い組織的環境が整っている。地衣菌との間で栄養塩類や光合成産物の授受が行われていると考えられている。
    共生ラン藻が地衣菌から遊離して単独で生育することを制限するような因子の1つとして窒素源が考えられ、共生ラン藻を分離し、共生と非共生状態における生理学的特性を調べた。単離した共生ラン藻は、窒素欠乏環境でヘテロシスト特異的な蛍光スペクトルが確認されたが、地衣体内では確認されなかった。ヘテロシスト細胞は、光化学系IIがないか機能しないので酸素発生活性が見られず、系Iのみが機能し、嫌気的な環境を細胞内に作り出してニトロゲナーゼによる空気中の窒素固定を行う。
    非共生状態にある単離した共生ラン藻について、酸素発生活性の光強度依存性を調べたところ、光強度の増加にともない活性は大きく低下したが、重炭酸イオン(HCO3)存在下では、強光による酸素発生活性の低下が押さえられた。これは、同様の一定時間の強光照射下で、地衣体の酸素発生活性能がほとんど低下しない傾向と類似していた。地衣体内の重炭酸イオンやCO2と光化学系の保護機能との関係が示唆された。
  • 南條 洋平, 和田 元, 林 秀則, 西山 佳孝
    p. 0015
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    光化学系IIは高温に対して感受性が高い。しかし光合成生物が穏やかな高温で生育すると、光化学系IIの高温耐性が増大する。我々はラン藻 Synechocystis sp. PCC 6803 を用いて光化学系IIの高温適応の分子機構を解析した。ヒスチジンタグのついた光化学系II複合体を従来の方法よりも穏やかな条件で単離した結果、高温(38℃)で生育させた細胞から得た光化学系II複合体は、低温(25℃)で生育させた細胞から得たものよりも高温耐性が増大した。この結果から、単離した光化学系II複合体に高温適応に関与する因子が存在することが示唆された。これらの光化学系II複合体を構成するタンパク質の中で高温によって存在量が増加したものについて遺伝子破壊を試みた。得られた変異株の一つでは光化学系IIの高温適応が著しく阻害されていた。この遺伝子は脂肪酸合成の最終反応を触媒する酵素FabIをコードしていた。FabIの特異的阻害剤を細胞に供与すると、光化学系IIの高温適応が完全に阻害されることが確認された。また光化学系IIをリパーゼ処理することによって高温耐性は失われた。以上の結果から、光化学系IIの高温適応にはその近傍に位置する何らかの脂質の新規合成が必要であることが推測される。
  • 渡辺 千尋, 寺島 一郎, 野口 航
    p. 0016
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    植物のミトコンドリア呼吸鎖にはATP生産と共役しないalternative oxidase (AOX)を介するシアン耐性経路がある。この経路はエネルギー的には無駄であるが、ストレス下における活性酸素生成の抑制や炭素・窒素バランス(C/N比)の調節に働く可能性が指摘されている。
    本研究では、低温ストレス下でのAOXの機能を明らかにすることを目的とした。シロイヌナズナ野生株とaox1a欠損形質転換株に4℃処理を施し、葉の性質を比較した。低温処理によって野生株の葉のシアン耐性呼吸速度が大きく増加したため、aox1a株では呼吸速度の増加の程度が低くなると予想したが、aox1a株ではむしろ野生株よりも高い呼吸速度を示した。aox1a株ではミトコンドリア膜間腔のNADHを酸化するNADH dehydrogenaseであるNDB2の発現が有意に上昇していた。また、酸化ダメージの指標であるMalondialdehyde量は、aox1a株で野生株より低い傾向であった。これらの結果だけではAOXが呼吸の低温馴化や活性酸素生成の抑制に働く可能性を否定できないが、そのようなAOXの機能は他のタンパク質に相補されうると考えられる。しかし、C/N比は野生株よりaox1a株で有意に高く、aox1a株ではデンプン蓄積量が多かった。AOXの機能として、炭水化物の蓄積を抑え、C/N比の調節に働く可能性が考えられる。
  • 鈴木 健策, 岡田 益己
    p. 0017
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    常温で育てたイネ(あきたこまち)の幼苗全体を10°C前後の低温に1週間程度曝しても可視的な障害を起こすことはない。ところがその時に根の温度を高く保つと2、3日で葉に白化が起こり、その後枯死に至るような顕著な障害が葉に広がる、それに先立ち光合成電子伝達機能に著しい障害が起こるという、従来知られているものとは異なる低温障害(高地温依存性低温障害)を前回報告した。この障害の原因は根からの過剰水分供給にあると考えこの障害と水耕液との関係について検討したところ、実は水ではなく硝酸イオンが密接に関係していることがわかった。また、Dual-PAM等を用いて光合成電子伝達系に及ぼす影響を比較検討した結果から、1日の高地温低気温処理により光化学系IIと光化学系Iの間に障害が明暗に関係なく起こり、この間の電子伝達がブロックされることが、その後の可視的な障害を起こす引き金になっているものと結論した。高地温依存性低温障害の初期障害部位及びその硝酸イオンとの関係についても議論したい。
  • 樋口 美栄子, 松井 敬子, 市川 尚斉, 近藤 陽一, 川島 美香, 長谷川 由果子, Doris Albinsky, 草野 都, 福島 ...
    p. 0018
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    植物の生産性増加の研究は、様々な環境変化やバイオエネルギー需要への要求を満たすために重要になってきている。我々は光合成反応に注目し、イネ完全長cDNAをシロイヌナズナにおいて過剰発現させたイネーナズナFOXラインを用いて、有用な遺伝子の同定を目指した研究を行っている。スクリーニングには、クロロフィル蛍光を二次元画像として経時的に測定できるシステムを用いた。これまでに約9,000ラインを測定し、野生型と異なるクロロフィル蛍光挙動を示す37ラインを単離した。候補株から単離したcDNAを用いて再度シロイヌナズナの過剰発現体を作成したところ、13ラインがオリジナルのラインと同じ表現型を示した。原因遺伝子には機知の光合成関連遺伝子や機能未知の遺伝子が含まれていた。候補株はクロロフィル蛍光パラメーターの違いにより数パターンに分類された。そのうちFv/Fm・qP・φIIが低い3つの候補株を用いてマイクロアレイ解析を行ったところ、共通して発現が変化する遺伝子が存在した。この結果から、共通して制御されている遺伝子セットの発現変化により同様な表現型が引き起こされている可能性が考えられる。また候補株を用いてメタボローム解析も行っており、各カテゴリーで共通して変化する代謝産物が存在した。本研究は平成17年度科学技術振興調整費「イネ完全長cDNAによる有用形質高速探索」によって行なわれている研究である。
  • 佐藤 友則, 三宅 親弘, 牧野 周
    p. 0019
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    Rubiscoの活性化状態は、Rubisco activaseを介してATP/ADP比、ストロマの還元状態およびΔpHによって制御されている。しかしながら、それらに影響を与えるオルタナティブな電子伝達活性を含めた電子伝達系からのRubiscoの活性化状態の制御機構について調べた知見がない。
    そこで本研究では、イネを材料に温度・CO2分圧・形質転換によるRubisco量変化における光合成CO2交換速度、ならびにPSIIとPSIの量子収率の3点を同時測定し、合わせてParry et al. 1997らの方法に準じて、Rubiscoの活性化状態を測定した。
    その結果、温度変化に対するRubiscoの活性化状態は、低温域で高い傾向があり、高温域においては、42℃を超えると60%程度まで低下した。ΦPSI/ΦPSIIおよびNPQも低温域で高く、42℃を超えると再びNPQは上昇した。また、CO2分圧変化に対するRubiscoの活性化状態は、ΦPSI/ΦPSIIおよびNPQの上昇が観察された低CO2分圧条件下において高く、高CO2分圧条件下において低かった。さらに、rbcS形質転換体イネにおけるRubiscoの活性化状態は、ΦPSI/ΦPSIIおよびNPQの上昇が観察されたrbcS-antisenseイネ(Rubisco量WTに比べて33%)で高く、rbcS-senseイネ(Rubisco量WTに比べて150%)では低かった。
    以上のことから、低温・低CO2分圧・低Rubisco量条件下では、PSI cyclic電子伝達を駆動し、ΔpHを介して高いRubiscoの活性化状態を維持していると考えられた。
  • 永井 健, 牧野 周
    p. 0020
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    熱帯由来の作物であるイネと、寒冷地作物であるコムギの、個葉光合成と個体生長の温度応答の違いを調べた。植物体は、昼温/夜温= 13/10℃、19/16℃、25/19℃、30/24℃および37/31℃の条件で水耕栽培を行った。個葉光合成の至適温度は、イネでは葉温にして30℃近傍、コムギでは25~30℃の間となった。25℃以下の光合成速度は、コムギがイネを明確に上回った。光合成の至適温度は栽培温度の違いによって変化しなかったが、イネ19/16℃&コムギ13/10℃栽培個体では低温への馴致が若干認められた。個体の乾物生産量は、イネでは30/24℃、コムギでは25/19℃条件で最大となった。葉面積比 (LAR)は、栽培温度に関わらずコムギがイネを大きく上回った。両種とも30/24℃条件において、LARが最大となった。コムギは純同化率(NAR)が低く、特に高温よるNARの低下が大きく、生長抑制につながった。イネでは、19/16℃のNARの低下が著しかった。NARはLARより相対生長速度と種に依存した高い相関を示し、個体生長の温度応答はNARの温度応答との関係が深いことが示唆された。以上、本研究の結果から、同じC3型光合成を行うイネとコムギであるが、イネはより高温に、コムギはより低温に適した光合成を行い、NARもイネはより高温で、コムギはより低温で高いことが明確になった。また、この両種のNARの温度応答の違いが両種の個体生長の温度応答の違いを生じる主要因であることも示唆された。
  • 菅野 圭一, 前 忠彦, 牧野 周
    p. 0021
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    イネ登熟期の高温が、収量の減少につながる事例がしばしば認められる。その理由の1つは、高い夜温によって呼吸が促進され、蓄積した炭水化物が消費されるためだと考えられている。しかし、登熟期の夜温がイネの乾物生産に及ぼす影響はよく分かっていない。そこで今回は、千粒重が従来品種よりも35%大きい秋田63号を用いて実験を行った。秋田63号は、シンク容量が大きいため転流が登熟後半まで持続する。そのため、炭水化物の無駄遣いがあるならば、明確にその差が現れると考えた。夜温処理は、人工気象室を用いて開花日から45日間行った。高夜温区は27˚C/27˚C(昼温/夜温)、対照区は27˚C/22˚C(昼温/夜温)とした。その結果、高夜温区の玄米千粒重と登熟歩合は、それぞれ8%と9%減少し、ポット当たりの収量は25%減少した。しかし、高夜温区の個体では夜間の呼吸による炭素の放出が増加したにもかかわらず、開花後45日目の乾物重には差が認められなかった。このため、夜温が高いことによる夜間の呼吸の促進は、少なくとも収量減少の主要因ではないと考えられた。高夜温区の個体では、個体乾物重に対する穂の乾物重が占める割合が増加した。よって、高夜温条件で栽培したイネにおいて観察された収量の減少は、個体レベルでの乾物分配の変化に起因する可能性が示唆された。
  • 柳田 小百合, 野口 航, 寺島 一郎
    p. 0022
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    CAM植物の葉では、日中、細胞間隙CO2濃度(Ci)が大きく上昇する。この上昇は、細胞内での有機酸の脱炭酸に由来するCO2が、細胞内から細胞間隙へと流出していることによる。CAM植物コダカラベンケイソウ(Kalanchoe daigremontiana)では、夜間のCO2吸収速度とリンゴ酸蓄積量に、葉の向(表)背(裏)軸間で差があることが知られている(Winter, 1987, 1989)。リンゴ酸蓄積量が異なると、Ciの上昇も向背軸間で異なることが予想される。本研究では、葉の両面表皮近くのCiを、各面のCO2交換速度と蒸散速度、気孔コンダクタンスから算出した。また、Ciと実際の光合成との関係を調べるため、自然条件下で葉を一定時間毎に採取し、表皮に平行な切片を作製し、各切片における光合成産物量の含有量を測定した。ガス交換速度の測定の結果、夜間のCO2吸収速度が大きい面で、日中の脱炭酸時におけるCiが大きかった。一面からCO2を放出し、もう一面からはCO2を吸収した時期も確認できた。以上のことから、Ciは葉の内部で一定ではなく、葉内に大きなCO2拡散抵抗が存在していることがわかった。一方、切片間における光合成産物の増減パターンには顕著な差は見られなかった。現在、切片のRubiscoやPEPCなどの酵素量を定量している。
  • 山内 俊, 新谷 考央, 野口 航, 寺島 一郎
    p. 0023
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    植物の生育温度はその葉の形態や光合成系に大きな影響を及ぼすことが知られている。植物を低温で栽培すると、葉の柵状組織の層数は増加する。さらに葉面積あたりの光合成系の酵素量は増加し、最大光合成速度は高くなる。それに対して、高温で栽培した植物では、葉は薄く広くなり、葉面積あたりのクロロフィル量や最大光合成速度は減少する。近年、このような葉の形態学的および生理学的性質の環境への馴化が、その葉自身の環境だけではなく、下部の成熟した葉の環境によっても調節されていることが報告されている。Arayaら(2007)は、若い葉の光合成特性の詳細な解析に基づき、成熟葉の光合成系の酸化還元状態によって、若い葉の光合成が調節される可能性を指摘した。温度環境に対する葉の馴化も、若い葉自身ではなく、成熟葉の環境によって調節されている可能性がある。本研究ではヒマワリの1枚の成熟葉のみを低温処理し、低温処理されていない上部の若い葉の形態学的、生理学的性質を調べた。1枚の成熟葉を低温処理した個体の若い葉の柵状組織は厚く、個体全体を低温処理したヒマワリの葉の柵状組織と同様の形態を示した。さらに若い葉の光合成速度は、対照個体と比べて処理個体では高い値を示す傾向にあった。これらの結果から、若い葉の温度環境だけではなく、下部の成熟葉の生育温度環境も、若い葉の形態学的および生理学的性質に影響することが示唆された。
  • 小林 佑理子, Hoekenga Owen, 伊藤 広孝, Kochian Leon, 小山 博之
    p. 0024
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナのアルミニウム耐性はリンゴ酸放出が主な耐性機構である。この放出は、コムギと同じようにリンゴ酸トランスポーターで制御される。その放出は、アルミニウム特異的であるが、これはリンゴ酸トランスポーター(AtALMT1)遺伝子の誘導とタンパク質の活性化の2重の制御を受ける機構であることが明らかになった。AtALMT1遺伝子は水素イオンで他のイオン処理よりも有意に誘導されるが、アルミニウム処理に比較すると有意に低い。一方、タンパクレベルの制御ではアルミニウム以外では速やかに不活性化されていると考えられた。タンパク質リン酸化及び脱リン酸化阻害剤を用いた実験から、両者の制御には、タンパク質リン酸化が関わることが明らかとなった。これは、AtALMT1遺伝子発現のシグナル伝達に関わる転写因子STOP1のイオン特異性と、発現解析の結果とも矛盾しない。この発現・活性化制御は、炭素ロスを最小化するためにも貢献すると考えられるが、プロモーターレポーターアッセイでは、基部では根内部のみで発現し炭素ロスを防ぎ、全体として障害部位(根端)のみを防御するために適した発現をすることが明らかとなった。尚、自然界から単離されたアルミニウム超感受性生態型では、このタンパク質がナンセンス変異していることもわかった。これは、AtALMT1が、環境ストレスのうち、Al耐性に特化した機能を持つことを示唆している。
  • 井内 聖, 小山 博之, 井内 敦子, 小林 安文, 北林 定子, 小林 佑理子, 一家 崇志, 平山 隆志, 篠崎 一雄, 小林 正智
    p. 0025
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    近年、土壌の酸性化により世界の耕作地の40%以上において作物の収量が低下している。酸性化した土壌ではアルミニウムイオン(Al3+)の増加が最も大きな生育阻害要因とされている。一方、土壌pHの低下そのもの、即ち過剰なプロトンも植物の成長を阻害するが、低pHストレス応答の分子機構については知見が非常に少なかった。そこで根の伸長阻害を指標にシロイヌナズナEMS変異体の選抜を試み低pHに対して高感受性を示す変異体(stop1)を取得した。続いてポジショナルクローニング法による原因遺伝子の解析を進め、表現型と連鎖する1塩基の変異をC2-H2タイプのジンク・フィンガータンパク質(STOP1)遺伝子内に見出した。次に相補試験およびT-DNA挿入変異体を用いた解析を行ない、STOP1遺伝子が低pH感受性の制御に重要な役割を持つことを明らかにした。一方金属イオン処理による根の伸長阻害を調べたところ、stop1変異体はAl3+に対して高感受性を示した。Al3+処理を行なうと野生株ではリンゴ酸トランスポーター遺伝子(AtALMT1)の発現誘導とリンゴ酸放出量の増加が生じAl3+耐性が獲得されるが、stop1変異株ではいずれも認められなかった。以上の結果から、STOP1遺伝子は低pHストレス耐性およびAl3+ストレス耐性の両方を制御している重要な遺伝子であることが示された。
  • 馬 建鋒, 山地 直樹, 黄 朝鋒, 三谷 奈見季
    p. 0026
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    イネはイネ科植物の中でアルミニウム耐性の強い種とされているが、その耐性機構についてはまだ明らかにされていない。我々はこれまでにイネアルミニウム感受性突然変異体als1を利用して、原因遺伝子の単離を行った。その結果、この遺伝子はABCトランスポーターのATP結合ドメンのみをコードしていることが分かった。今回は膜結合ドメンをコードする遺伝子Als3を同定したので、報告する。玉ねぎの表皮細胞にリポーター遺伝子との融合遺伝子を一過的に発現させて細胞内局在性を観察したところ、Als3は細胞膜に局在していたが、Als1は単独の場合、細胞内に顆粒状に存在していた。しかし、Als1とAls3をともに発現させた場合はAls1も細胞膜に移行することが分かった。また酵母two hybridでも両タンパク質が相互作用していることを確認した。Als1とAls3遺伝子はともに根で発現し、その発現量はアルミニウムによってすみやかに増加する。面白いことに、als1変異体では、Als3遺伝子の発現はアルミニウムに応答しなかった。また抗体染色の結果、Als1とAls3とも根のすべての細胞に局在していた。これらの結果はAls1とAls3が細菌タイプのABCトランスポーターのように、別々に翻訳された後、複合体として機能していることを示唆している。現在、このトランスポーターの輸送基質の同定を試みている。
  • 横正 健剛, 上野 大勢, 山地 直樹, 三谷 奈見季, 馬 建鋒
    p. 0027
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    近年本研究室からオオムギのアルミニウム耐性に関わる遺伝子HvAACT1が同定された。この遺伝子はmultidrug and toxin excrusion (MATE)ファミリーに属しており、アルミニウム活性型クエン酸トランスポーターである。イネにおいてHvAACT1の相同遺伝子は3つあるが、今回はもっとも相同性の高い遺伝子(アミノ酸レベルで87%)であるOsFRDL1の機能について報告する。まずはOsFRDL1のTos-17の破壊株を取得して、アルミニウムによるクエン酸の分泌量を野生型と比較した。その結果、クエン酸の分泌量に差が認められなかった。次に、異なる鉄濃度(0.2μMと10μM FeSO4)で栽培したところ、0.2μM の場合のみ、破壊株の新葉にクロロシスが観察された。地上部の鉄濃度を比較した結果、破壊株の鉄濃度は野生株より低く、導管液中の鉄濃度とクエン酸濃度も野生型の約半分であった。また破壊株の根の中心柱に鉄の沈積が観察された。この遺伝子をアフリカツメガエルの卵母細胞に発現させたところ、クエン酸の外向きの輸送活性が認められた。この遺伝子は主に根で発現していて、その発現量は鉄の有無によってほとんど影響を受けなかった。これらの結果はOsFRDL1はオオムギのHvAACT1とは異なり、中心柱へクエン酸を輸送するために必要なトランスポーターであることを示している。このトランスポーターは鉄をクエン酸との錯体の形態で地上部に輸送するのに必要である。
  • 古市 卓也, 藤巻 秀, 河地 有木, 鈴井 伸郎, 石井 里美, 石岡 典子, 山本 泰, 松橋 信平, 曽我部 正博, 山本 洋子
    p. 0028
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    糖移行に代表される植物個体内に於ける物質転流の速度や方向性は光環境や化学ストレス、栄養条件などにより制御されることが知られている。酸性土壌に於ける化学ストレス物質であるアルミニウムイオン(Al3+)は、根からの有機酸放出を引き起こす。根に於ける有機酸合成、放出を支えるのは地上部からの光合成産物供給であるが、根へのAl3+暴露が光合成の効率及び光合成産物移行にどのように影響を示すかは未だ明らかでない。そこで、11C標識二酸化炭素(11CO2)を投与した植物個体内における光合成産物の蓄積、移行の様子をポジトロンイメージング法により解析した。結果、Al3+が地上部に於ける光合成を上昇させ、Al3+暴露部位への糖集積を促進することを見出した。今後、この分子基盤を明らかにすることで酸性土壌に適合した作物育種を行い、酸性土壌の緑化、利用促進を目指す。
  • 山本 洋子, 小塚 正太郎, 藤川 雅子, 佐々木 孝行
    p. 0029
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    タバコ培養細胞を、カルシウムとショ糖を含む溶液(Ca培地)に懸濁し、アルミニウム(Al)処理(最長18時間)を行うと、処理開始後6時間目までに細胞伸長阻害が、6時間目以降に活性酸素誘発、カロース分泌、細胞死(ただしCa培地から増殖培地へ懸濁後に誘発)が見られる。本研究では、伸長阻害の機構を解析するとともに、伸長阻害とそれ以外の応答反応との関係を解析した。細胞伸長の程度は水吸収(新鮮重)の増加で評価した。処理開始後3から6時間以降に、Al未処理細胞(コントロール)では、新鮮重の増加とともに遊離糖含量の増加と浸透濃度の増加がみられるが、Al処理細胞では、これらの増加が見られなかった。さらに、Al処理細胞では、14C-ショ糖の吸収が、3時間目以内にコントロールの40%まで阻害された。一方、タバコ細胞を糖欠乏培地(ショ糖の代わりにマンニトールを含むCa培地)に懸濁して18時間反応させると、遊離糖含量ならびに新鮮重の増加が、Al処理細胞と同程度に抑制されたが、活性酸素、カロース、細胞死の誘導はほとんど見られなかった。従って、タバコ細胞の水吸収(細胞伸長)はショ糖の吸収に依存すること、Alは細胞のショ糖吸収を阻害することで水吸収を阻害すると思われこと、Alによる活性酸素、カロース、細胞死の誘導は、ショ糖吸収阻害だけでは誘発されず他の細胞因子との相互作用が必要であることが、明らかとなった。
  • 玉置 雅紀, Pilon-Smits Elizabeth, Freeman John
    p. 0030
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    我々はセレン耐性の異なる2種類のシロイヌナズナ生態型(セレン耐性;Col-0、セレン感受性;Ws-2)のセレン応答性を比較することにより、植物のセレン耐性機構について解析を行った。DNAアレイ法による遺伝子発現解析を行った結果、セレン耐性のCol-0ではセレンの添加により植物ホルモン(エチレン・ジャスモン酸)により誘導される防御遺伝子の発現増加が顕著であった。そこでこれらの植物ホルモンの蓄積量を調べたところ、セレン投与によるエチレンやジャスモン酸量の増加はCol-0において顕著に見られた。このことからこれらの植物ホルモンのセレン耐性への寄与が考えられた。そこで、Ws-2にこれらの植物ホルモンをセレンと共に添加した培地上で生育させたところ、Ws-2のセレン耐性が添加した植物ホルモンの濃度依存的に上昇することが観察された。またCol-0由来のエチレンやジャスモン酸の合成・シグナル伝達欠損変異体のセレン耐性を解析したところ、これらの変異体におけるセレン耐性は野生型に比べ著しく低下していた。以上の結果から、これらの植物ホルモンはセレン耐性の獲得に必要な要素であることが明らかになった。また本発表ではこれらの植物ホルモンのセレン耐性に対する作用機作及び活性酸素の関与についても議論したいと考えている。
  • Khurram Bashir, Yasuhiro Ishimaru, Takahiro Aoyama, Michiko Takahashi, ...
    p. 0031
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    Glutathione (GSH) is involved in many aspects of plant growth and development including redox control, storage and transport of reduced sulfur, and response to biotic and abiotic stresses. The transport and compartmentalization of GSH is essential to perform all these functions. We have cloned an Iron (Fe) deficiency regulated GSH transporter (IGT) from rice. IGT is a putative member of oligopeptide transporters (OPT) family, and was identified through microarray analysis as its expression was highly upregulated in response to Fe-deficiency. IGT showed high homology i.e. 82% homology to BjGT1 and 80% homology to AtOPT3. Electrophysiological measurements using Xenopus leavis oocytes showed that IGT is a functional GSH transporter. Northern blot analysis and IGT promoter-GUS analysis confirmed that its expression is induced in response to Fe-deficiency in root as well as in shoot tissue. These results suggested that IGT plays a critical role in mitigating Fe-deficiency induced stress in rice.
  • Xiao-Peng Wen, Yusuke Ban, Hiromichi Inoue, Narumi Matsuda, Takaya Mor ...
    p. 0032
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    A transgenic European pear (#32) overexpressing apple spermidine synthase (SPDS) and wild type were subjected to the stress for CdCl2, PbCl2, ZnCl2 or their combination. Based on the shoot growth, #32 was much better than wild type. SPDS expression and Spd titer in #32 were higher than those in wild type. Glutathione was significantly depleted in line #32 with stress, but not so much in wild type. Activities of glutathione reductase/superoxide dismutase and malondialdehyde content were changed under stress toward a more favorable direction for survival in #32: these changes were closely related to the Spd titer. Accumulation of heavy metals tended to be less in #32 than that in wild type except for ZnCl2 stress, while calcium content showed the reverse trend. Therefore, Spd levels are implicated in enhanced heavy metal tolerance possibly via the antioxidant property of Spd per se as well as by exerting an antioxidant system.
  • 酒井 有希, 渡部 敏裕, 和崎 淳, 瀬野浦 武志, 信濃 卓郎, 大崎 満
    p. 0033
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    シダ植物にはヒ素を高濃度に集積する種が存在し、ヒ素汚染土壌のファイトレメディエーションにおける利用が期待されている。ヒ素は土壌中では主に五価のヒ酸の形態で存在しており、植物に吸収されると体内でヒ酸還元酵素(AR)により三価の亜ヒ酸へと還元される。この亜ヒ酸をγグルタミルシステイン(γEC)、グルタチオン、フィトケラチン(PC)といったチオールと結合させることにより無毒化が行われると考えられている。γECはシステインにグルタミン酸が結合したペプチドであり、グルタチオンおよびPC合成の前駆物質であるため、γECの合成酵素はヒ素の無毒化に大きな役割を持っていることが予想される。そこで、ヒ素の超集積植物として最もよく知られているモエジマシダのヒ素無毒化メカニズムを、γEC合成酵素の働きを中心に解析した。
    他種植物の既知のγEC合成酵素アミノ酸配列から作成したプライマーを用い、ヒ素処理をしたモエジマシダからRNAを抽出した。そのcDNAを鋳型としてPCRを行い内部配列を増幅し、RACE法により全長の配列を決定した。このγEC合成酵素に加え、これまでにクローニングされているPC合成酵素およびARの遺伝子発現量に与えるヒ素の処理濃度、処理時間、ならびに形態(ヒ酸、亜ヒ酸)の影響を調べた。さらに植物体のヒ素吸収量、チオール化合物(γEC、グルタチオン)の含有率も測定し、モエジマシダのヒ素無毒化メカニズムを総合的に考察する予定である。
  • 西山 友, 和崎 淳, 信濃 卓郎, 伊藤 進, 大崎 満
    p. 0034
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    低リン適応に関わる分子応答制御には、全身的な制御を司る長距離シグナル伝達機構と、リンの充足状態を局所的に感知する機構があると考えられている。低リンに素早く応答するイネ由来の遺伝子OsPI1がこれら2つの機構にどのように制御されているかを明らかにするために、本研究を行った。低リン条件(-P)及びリン充分条件(+P)で水耕栽培したイネの根を半分に分け、片側を-P(-P根)、もう片側を+P(+P根)の培養液に浸す根分け処理を行った。-Pから根分けしたものは12時間~5日間、+Pから根分けしたものは2時間~5日間まで経時的に採取した。これらの試料について、qRT-PCRでOsPI1の発現量を測定した。+Pから根分けした場合、1日目以降で+P根に比べて-P根で有意にOsPI1発現が誘導された。また、-Pから根分けした場合の-P根におけるOsPI1発現は2日目まで高いままだったが、3日目以降抑制された。分散分析の結果、-P根から根分けした3日目以降の-P根でのOsPI1発現は大きく抑制されたものの+P根よりも有意に高いままであることが示された。以上の結果から、+Pから根分けした場合と-Pから根分けして3日目以降の-P根におけるOsPI1の発現は、長距離シグナル伝達機構による全身的な負の制御を受けると同時に、局所的な感知機構による正の制御を受けることが示唆された。
  • 崔 祥子, 和崎 淳, 信濃 卓郎, 松浦 英幸, 大崎 満
    p. 0035
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    植物は根圏環境の低リン状態に対して様々な戦略をもって適応していることが知られている。本研究は、イネ科、アブラナ科、マメ科といった低リン適応にそれぞれ特色のある科のモデル植物であるイネ、シロイヌナズナ、ミヤコグサを用いて、低リン適応戦略を解析することを目的とした。幼植物時に水耕栽培において低リン処理した場合の植物の代謝変動を、リン充足条件で栽培した植物と比較により解析した。トランスクリプトーム解析を地上部と根部に対して行ない、その結果を基に可能な限りKappa-Viewによるパスウェイ解析を行った。さらにリン代謝において重要と判断されたいくつかの遺伝子に関してはReal time PCRによる発現量解析を行い、培養液および体内のリンレベルに対しての変動を調べた。3種の植物に概ね共通して、酸性ホスファターゼやヌクレアーゼ、解糖系、デンプン合成系の遺伝子などが、地上部、根部ともにリン欠乏で発現が増加した。炭素代謝においては、TCAサイクルやグリオキシル酸回路などでのリン欠乏応答の違いが植物間で顕著であった。また、種間でのリン欠乏による遺伝子発現応答の違いは、二次代謝産物関連遺伝子において最も顕著だった。特にフラボノイド代謝系においてそれぞれの植物種で特徴的な傾向が判断されたことから、本発表ではLC-MS/MSを用いたいくつかのフラボノイドの定量解析結果も報告する。
  • 稲垣 善茂, Osbourn Anne
    p. 0036
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    植物が生産するサポニンは配糖化トリテルペンであり、抗がん作用や抗菌活性を持つものなど様々な誘導体が知られている。特にエンバクやトマト植物が生産する抗菌性サポニンはエンバク立枯病菌やトマト白星病菌の感染成否に深く関わっていることが知られている。またエンバクを除く単子葉類ではサポニンは生合成されていないと考えられている。そこで我々はイネに抗菌性サポニンの生産能を賦与することによる新規な耐病性の獲得を最終目的として, イネのサポニン生合成経路遺伝子群の同定とその分子解析を試みている。まずはイネの幼苗時のサポニン, トリテルペン様化合物およびその中間体についてLC/MS及びGC/MSによる化学分析を試みたがいずれも見いだされなかった。次いで我々はイネのサポニン生合成経路上流のステップであるOxidoSqualene Cyclase (OsOSC )遺伝子に注目し, エンバクでの知見を基にゲノムデータベース解析と遺伝子発現解析を試みた。その結果, 本遺伝子はイネゲノム中に11遺伝子存在し, そのうちの5遺伝子がそのゲノム構造から偽遺伝子である可能性を見い出した。さらに残りの6遺伝子のうち5遺伝子は幼苗において遺伝子発現が認められた。今後遺伝子発現が確認された5遺伝子についてはOSC酵素活性測定を試みたい。
  • 山崎 真巳, 奥山 淳, 林 香代子, 浅野 孝, Sirikantaramas Supaart, 斉藤 和季
    p. 0037
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    [目的] アカネ科チャボイナモリ(Ophiorrhiza pumila)は、強力なトポイソメラーゼI阻害剤で医薬品原料としても重要なテルペノイドインドールアルカロイドであるカンプトテシン(CPT)を生産する。我々は、これまでにCPTを高生産する毛状根とCPTを生産しない脱分化状態の懸濁培養細胞を用いて、毛状根特異的に発現する遺伝子のプロファイリングを行ってきた。本研究では毛状根特異的に発現しCPT生産制御に関与すると推測されるAP2/ERF転写調節因子ならびにP450(CYP)ホモログについて、これらの機能を解析するために全長cDNAを単離し、RNAi毛状根ならびに過剰発現毛状根を作出した。
    [実験・結果] 毛状根特異的に発現し、AP2/ERFファミリーに属すOpERFのcDNAを得、RNAi 法によりOpERFが発現抑制されたRNAi毛状根ならびに過剰発現毛状根を作出した。このRNAi毛状根では、OpERFの発現量とトリプトファン脱炭酸酵素遺伝子の発現量に弱い正の相関が見られた。また、毛状根特異的に発現する、OpCYP1~4についてRNAi毛状根を作出した。これらの毛状根特異的転写調節因子ならびにCYPホモログの遺伝子発現を抑制したRNAi毛状根では、CPT蓄積量には大きな変化は見られなかった。
  • 廣末 瑛介, 山東 智紀, 渡辺 訓江, Rismayanti nil, Teuku Tajuddin, 福崎 英一郎, 小林 昭雄
    p. 0038
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    [目的]パラゴムノキが産出するラテックスに含まれるビタミンEはその抗酸化作用により、ゴム製品中において天然老化防止剤として作用する。パラゴムノキの組織別にビタミンE分析を行ったところ、成葉中にはtocopherol,ラテックス中にはtocotrienolが多く含まれ、またそれぞれの異性体組成が異なることが明らかになっている。本研究では、パラゴムノキにおけるビタミンE生合成関連遺伝子群の取得と、遺伝子発現と代謝産物の関係を明らかにすることを目的とした。
    [方法と結果]これまでに集積したパラゴムノキのラテックスと木部のEST情報をもとに、ビタミンE生合成関連遺伝子群のクローニングを行い、10種類の候補遺伝子を明らかにした。双子葉植物で初めて HGGT遺伝子を取得した。また、個々の遺伝子に対して、リアルタイムPCR を用いた組織別の遺伝子発現量と代謝物量の比較を行った。その結果、tocopherol生合成遺伝子のGGDRとHPTは、葉の発達とともに発現が増加し、また、tocotrienol生合成遺伝子のHGGTは、ラテックス特異的に発現し、代謝産物と相関が見られた。また、γ-tocopherol methyltransferase (γ-TMT)の発現量により異性体の組成が制御されていることも明らかとなった。
  • 奥村 亮平, 岡澤 敦司, 畑 直樹, 和泉 自泰, 小埜 栄一郎, 佐竹 炎, 福崎 英一郎, 小林 昭雄
    p. 0039
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    近年,リグナン類の持つ抗酸化作用や制ガン作用などの様々な有用機能が注目されている.しかし,リグナン類は代謝中間体, 類縁体が数多く,また植物中に微量しか存在しない成分があるため,網羅的に分析することは困難であった.そこで,本研究では, capillary LC-ESI-MS を用い,リグナン類とその前駆物質であるフェニルプロパノイド類の高感度微量分析系を確立し,この分析系を用いてリグナン類の蓄積量と植物の二次代謝に最も影響を与えると考えられる光条件の関係を解析することを目的とした.まず,リグナン関連化合物のインフュージョン分析を行い,MS2,MS3 フラグメントの解析を行った.その結果,イオン化は negative mode が良好であり,MSn 分析を行うことで pinoresinol と epipinoresinol のような立体異性体をフラグメントパターンから区別することが可能であることが分かった.MS の検出においては検出感度と選択性を向上させるために multiple reaction monitoring (MRM) を採用した.リグナン類における検出限界は数 f mol であった.レンギョウ葉の分析を行った結果,10 種類のリグナン類を検出することができた.さらに,異なる光条件化で育成させたレンギョウ葉を分析したところ,青色光の連続照射によって,5 種類のリグナン類の蓄積量が増加する傾向がみられた.
  • 内田 英伸, 中谷内 修, 竹村 美保, 梶川 昌孝, 大山 莞爾
    p. 0040
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    石油植物ユーフォルビアはトリテルペン・ステロール化合物を多量に蓄積する。ユーフォルビアのメバロン酸経路の鍵酵素スクアレンシンターゼの機能を解析するために、同遺伝子のホモログcDNAをRT-PCR法とRACE法とによりクローニングし、対応するゲノムクローンをPCR法により単離した。この遺伝子は13コのエクソンから構成され、推定ORFにコードされるアミノ酸配列は411残基からなり、N末端の380残基領域は他生物配列との相同性が高く、C末端の31残基の疎水性アミノ酸リッチ領域はその相同性が低い。本研究発表では、この遺伝子の機能を同定するために、N末端側380残基アミノ酸配列をコードするcDNA領域を発現ベクターpET32bにクローニングし、大腸菌BL21(DE3)内でチオレドキシンとの融合タンパク質として過剰発現させた。現在、この大腸菌可溶性タンパク質画分にファルネシルピロリン酸、NADPHを添加し、37℃で30分間インビトロ反応を行い、有機溶媒抽出層をGC-MS解析している。(本研究の一部は経済産業省の「生物機能活用型循環産業システムプログラム」の一環として、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)より委託をうけて実施したものである)。
  • 清水 文一, 山本 亮太郎, 川村 直裕, 甲斐 光輔, 水谷 正治
    p. 0041
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    クマリン化合物は2H-1-benzopyran-2-one構造を基本骨格に持つ二次代謝産物で植物界に広く見られる。抗菌・抗酸化活性を示し、病原菌の侵入や傷害ストレスによって誘導されることから、植物の病害抵抗性に関与しているものと考えられる。その生合成は、フェニルプロパノイド経路上に存在する桂皮酸類のオルト位水酸化、側鎖のトランス―シス異性化、ラクトン化反応を経て進行する。我々はこれまでに、シロイヌナズナにおいてferuloyl-CoA 6'-位水酸化酵素(AtF6'H1)がscopoletin生合成の鍵段階を触媒することを示した。一般に、クマリン化合物生合成において、桂皮酸類のオルト位水酸化に続く側鎖異性化反応は光によって進行していると考えられてきた。しかしながらサツマイモ根塊など暗条件下でもクマリン化合物を蓄積する植物が存在するなど、クマリン化合物のラクトン形成には不明な点が残されている。本研究では、AtF6'H1の触媒反応によって生成する6'-hydroxyferuloyl-CoAの溶液中の挙動に注目し、側鎖異性化およびラクトン化反応がどのように進行しているのかを検討した。その結果、AtF6'H1触媒反応の後に生ずる異性化、ラクトン化は無酵素的かつ自発的に進行しscopoletinを生成した。
  • 山本 亮太郎, 酒井 英里, 甲斐 光輔, 水谷 正治, 清水 文一
    p. 0042
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    クマリンはサクラ(Cerasus lannesiana)の花や桜餅の甘い香りの主成分である。クマリン生合成は桂皮酸のオルト(2'-)位水酸化を経て進行すると一般に考えられているが、桂皮酸オルト位水酸化酵素は同定されていない。我々はこれまでに、シロイヌナズナのスコポレチン生合成の鍵酵素であるフェルロイル-CoA オルト(6'-)位水酸化酵素(AtF6'H1)を同定した。桂皮酸オルト位水酸化酵素は桂皮酸類のオルト位を水酸化する点でAtF6'H1と共通しており、AtF6'H1と類似した酵素である可能性が示唆される。また、サクラ葉には遊離のクマリンはほとんど含まれていないが、葉には前駆体として2'-ヒドロキシ桂皮酸のグルコシドが蓄積している。傷害を受けると、グルコシドはβ-グルコシダーゼの作用により加水分解されたのち、遊離した2'-ヒドロキシ桂皮酸は自動的にラクトン化してクマリンを生じる。そこで本研究では、桂皮酸オルト位水酸化酵素およびβ-グルコシダーゼのクローニングを目的として、オオシマザクラ葉のcDNAライブラリーを作製し、各種プローブを用いてスクリーニングを行った。
  • 松本 征太郎, 田口 悟朗, 山本 亮太郎, 甲斐 光輔, 水谷 正治, 清水 文一
    p. 0043
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    クマリン化合物であるスコポレチンはフェルラ酸から、ウンベリフェロンはp-クマル酸からオルト位水酸化を経てそれぞれ生合成される。我々はシロイヌナズナにおけるスコポレチン生合成の鍵酵素フェルロイル-CoA オルト(6'-)位水酸化酵素(AtF6'H1)を同定し、昨年度年会にて報告した。AtF6'H1は フェルロイル-CoAに対して高い基質特異性を示した。またシロイヌナズナは主としてスコポレチンを蓄積することから、桂皮酸類オルト位水酸化酵素の基質特異性が、蓄積するクマリン化合物の種類に影響すると考えられる。
    植物ESTデータベース中に多くのAtF6'H1ホモログが存在している。中でもサツマイモおよびタバコではスコポレチンとウンベリフェロンを蓄積することから、ESTデータベースにみられるこれら植物由来のAtF6'H1ホモログはそれぞれのクマリン化合物生合成に関与していると推測される。またそのホモログはAtF6'H1とは異なる基質特異性を示す可能性がある。本研究ではサツマイモおよびタバコの桂皮酸類オルト位水酸化酵素のクローニングを目的とした。EST 配列情報をもとにプライマーを設計しcDNAをテンプレートとしたPCRにより候補遺伝子の部分配列を取得し、さらに3', 5'-RACE法により全長配列を決定した。
  • 松葉 由紀, 奥田 裕樹, 阿部 裕, 北村 美江, 寺坂 和祥, 水上 元, 鎌倉 浩之, 川原 信夫, 合田 幸広, 佐々木 伸大, 小 ...
    p. 0044
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    近年、アントシアニンのアシル基転移酵素(AAT)について、アシルCoA を donor とするものについての研究が進められてきた。これに対し、1992年にニンジンのアントシアニン合成培養細胞においてアシルグルコースを donor とする AAT(AGDAT) 活性が報告されている。しかし基質であるアシルグルコースの調製が困難であったため、AGDATについての研究は遅れていた。今回、大腸菌で生産したセンニチコウ由来のシナピン酸配糖化酵素にアラビドプシス由来のスクロース合成酵素を利用した UDP-グルコース再生系を組み合わせることで、4種類のアシルグルコースを効率よく酵素的に合成する系を確立した。
    調製したアシルグルコースを基質として、ニンジン (Daucus carota) のアントシアニン合成培養細胞と、その近縁種でありながら主要アントシアニン色素のアシル基のみが異なるハマボウフウ(Glehnia littoralis)のアントシアニン合成培養細胞由来の粗酵素液中におけるアシル基転移酵素の基質特異性を検討した結果、両種の基質特異性に顕著な差は見られなかった。この結果から両種の主要色素のアシル基の違いは、アシル基転移酵素の基質特異性によるものではなく、細胞内における donor であるアシルグルコースの蓄積量比が異なる可能性が示唆された。
  • 高橋 加奈, 高村 恵理, 作田 正明
    p. 0045
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    高等植物において、赤色の多くはアントシアニンにより発色されている。それに対し、ナデシコ科、ザクロソウ科を除くナデシコ目植物ではアントシアニンは合成されず、その赤色はベタシアニンによって発色されている。我々はナデシコ目植物のベタレイン生合成系に注目し、ベタシアニン生合成酵素であるDOPA dioxygenase (DOD) についてクローニングと解析を行った。
    ナデシコ目植物であるヨウシュヤマゴボウ (Phytolacca americana) の培養細胞から、RACE法によりDOD遺伝子のcDNAの単離を試みた。その結果、ヨウシュヤマゴボウには複数のDOD遺伝子が存在することが分かり、今回、2つのDOD遺伝子においてORFを含むcDNAの全長を得た(PaDOD1PaDOD2)。これらPaDOD1とPaDOD2はアミノ酸レベルでおよそ80%の相同性を示した。PaDOD1PaDOD2の発現パターンを解析した結果、培養細胞と植物体において、ベタシアニン蓄積の見られる赤色培養細胞や紅葉だけでなく、白色培養細胞や緑色の葉でも発現が見られた。さらに、これらの遺伝子のシス領域をinverse PCR法を用いて単離したところ、Myb型転写因子やbHLH型転写因子結合部位と思われる配列が見られた。これらの結果をもとに、ヨウシュヤマゴボウにおける複数のDOD遺伝子の発現制御機構と機能についてさらなる解析を進めている。
  • 由田 和津子, 仲谷 祐美, 山上 あゆみ, 金子 貴一, 佐藤 修正, 田畑 哲之, 中野 雄司, 作田 正明
    p. 0046
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    フラボノイド合成は、周囲の環境からのストレスや発達段階、器官、組織による違いなど、さまざまな要因によってその発現が制御されている。マメ科植物ではフラボノイド合成に関与する酵素群は多重遺伝子族を形成しており、より精密な生合成制御が行われていることが考えられる。我々はこれまでにマメ科モデル植物であるミヤコグサより、シロイヌナズナのプロアントシアニジン合成に関与するとされるMYB型転写因子TT2のホモログLjTT2-1-2-3を単離し、これらがゲノム上でタンデムに配列し多重遺伝子族を形成することを見出した。レポーターアッセイにより、3つのLjTT2はプロアントシアニジン生合成酵素遺伝子のプロモーターを活性化することが明らかとなった。3つのLjTT2のアミノ酸配列は高い相同性を示すのにもかかわらず、器官の違いやストレスの負荷に応じた発現パターンが異なり、bHLH型転写因子、WDRタンパク質との相互作用においても三者の間で違いが見られることから3つのLjTT2はそれぞれ機能分化していることが示唆された。現在、シロイヌナズナに対して35S:: LjTT2-1, -2, -3を導入した形質転換体を作成し、プロアントシアニジン合成について検証を行っている。また、bHLH、WDRタンパク質を中心に、LjTT2のタンパク質相互作用についての解析を進めている。
  • 増本 千都, 大河 浩, 谷口 洋二郎, 福田 琢哉, 深山 浩, 徳富(宮尾) 光恵
    p. 0047
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ (PEPC)は、ホスホエノールピルビン酸と重炭酸イオンからオキサロ酢酸と無機リン酸を生成する反応を触媒する酵素で、高等植物をはじめ藻類、細菌などに広く存在している。これまでに知られているPEPCはすべて細胞質局在性であるが、イネは葉緑体に局在するPEPC (Osppc4)をもつ。今までのところ、葉緑体型PEPC遺伝子はイネ栽培種と野生種を含むOryza属でのみ確認されている。
    Osppc4はイネのすべての器官で発現したが、緑色器官、特に葉身と葉鞘で強い発現を示した。プロモーターGUS解析により、Osppc4は葉身と葉鞘では緑色柔細胞 (葉肉細胞)で発現すること、穎花と枝梗では緑色柔細胞に加え維管束でも発現することがわかった。RNAi法でOsppc4の発現を抑制すると、葉身のPEPC活性が30-35%低下したことから、葉緑体型PEPCが葉身全PEPCタンパク質の約1/3を占めることがわかった。一方、登熟初期の穎花ではPEPC活性はほとんど低下せず、穎花のOsppc4含量はかなり低いことが示唆された。Osppc4の発現を抑制すると、栄養生長期の個葉光合成速度はほとんど変化しなかったが、生育が若干抑制された。一方、登熟期においては、顕著な登熟遅延と収量の低下が認められた。
  • 徳富(宮尾) 光恵, 谷口 洋二郎, 増本 千都, 福田 琢哉, 大河 浩, 佐々木 治人, 深山 浩
    p. 0048
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    トウモロコシC4型PEPC、トウモロコシC4型PPDK、ソルガムNADP-リンゴ酸脱水素酵素(MDH),イネC3型NADP-リンゴ酸酵素(ME)を共発現する形質転換イネの光合成特性を調べた。PEPC単独を高発現させると、すべてのCO2濃度域(Ci = 50-800 ppm)でみかけの炭酸固定速度が低下する。これは、PEPC高発現による明呼吸の促進とRubisco活性(炭酸固定効率)の低下に起因することがわかっている。4種類の酵素を共発現する形質転換イネでは、明呼吸速度はPEPC高発現イネとほぼ同じだったが、Rubisco活性が増大した。みかけの炭酸固定速度もすべてのCi域で増大し、非形質転換イネと同等あるいは若干上回るレベルにまで回復した。この光合成促進は高Ci域で顕著であること、CO2補償点はほとんど変わらなかったことから、4種類のC4酵素を高発現させてもRubisco近傍のCO2濃度は変化しないことが示された。炭素同位体分別値は4種類の酵素いずれを高発現させても変化しなかったが、四重形質転換イネでは若干増大した。PEPCとMEを共発現する形質転換イネ(PEPC + ME、PEPC + PPDK + ME)でも増大が認められたことから、炭素同位体分別値の増大は疑似C4光合成回路の駆動によるものではなく、導入したPEPCとMEが関与する何らかの代謝経路によるものと考えられる。
  • 明渡 絵里朱, 徳永 浩樹, 松村 浩由, 小川 岳人, 前田 貴行, 井上 豪, 甲斐 泰, 三原 裕子, 古本 強, 泉井 桂
    p. 0049
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    C4光合成のPEPCは、リンゴ酸によるアロステリック阻害を受ける。この阻害感受性はpH7で高く、pH8では著しく低下する。細胞質のpHは光合成時に上昇するので生理的に意味のある性質であろう。大腸菌酵素(EcPEPC)にはこの性質はない。PEPCの立体構造の解析より、PEPCの阻害と活性化はフレキシブルループI(C4光合成型トウモロコシ酵素(ZmPEPC)の残基番号で631-651)の二方向的な動きによるが、今回ZmPEPCの組換え体のX線結晶解析に初めて成功し、このループの動態がpH依存的に異なること、pH7ではこのループ中のHis(H653)が荷電し、植物特有のループII(124-140)との相互作用が強くなり固定される可能性を示唆した。これを実証するため、種々の部位特異的変異をZmPEPC(H653N, H653D, H653K, H653R, D133A/E134A, E140A/D142A, G650A/T652A)およびEcPEPC (A590G/A592T, A592G/A594T, なおH593はZmPEPCのH653に相当)に導入し、この可能性をほぼ支持する知見を得た。
  • 阪上 綾, 山崎 恭央, 吉村 一恵, 秋田 求, 泉井 桂
    p. 0050
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    Eleocharis viviparaは北米南東部に自生するカヤツリグサ科ハリイ属の植物であり、乾期には陸生しC4光合成(NAD-リンゴ酸酵素型)を、雨期には沈水しC3光合成を行う。同一種内で、C3とC4光合成の可逆的転換を行うので、C4光合成の成立に必要な遺伝子やタンパク質の探索を行うのに好適な植物材料である。当面、本植物のC4型PEPCの遺伝子発現や活性制御の機構の解明を目指しているが、研究の初期に、C4型PEPCの植物組織からの抽出率が、本植物やトウモロコシなどについての従来法では著しく低いことがわかった。そこで本研究では、新たな抽出法を開発することを目的とした。抽出用溶液への添加物として、従来はウシ血清アルブミンやグリセリンなどが用いられてきたが、今回スキムミルクを用いてみた。その結果、抽出率はこれまでより飛躍的に、約50-100倍、改善されることがわかった。抽出液の最適組成、有効成分などについて検討し確立した方法を報告する。イムノブロッティングにおいてブロッキングに用いられるのと同様、スキムミルクはPEPCが繊維質に富む茎の成分に疎水的に吸着されるのを防いだためと考えられる。
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