抄録
植物の主要な器官である葉は、有限性の細胞増殖を経て形成されるが、細胞増殖が可能な期間を規定する機構は不明である。我々は、これまでに葉の細胞数が変化したシロイヌナズナ突然変異株を大規模に単離している。その中には、葉原基における細胞増殖期間が通常よりも延長された表現型を示す優性のgrandifolia-D (gra-D)変異株が3系統 (#488, #675, #2001系統)含まれる。このような表現型の分子的背景を明らかにするため、これら3変異株の原因遺伝子座の遺伝学的マッピングを行った。その結果、#488および#675系統では2番染色体上部、#2001系統では4番染色体上部にその変異が位置することが明らかになった。ところが奇妙なことに、これらのマッピング集団のうち、gra-D表現型を示すホモ接合体は、4番染色体下部にも連鎖を示した。一方、野生株の表現型を示す分離個体には、そのような連鎖は認められなかった。この結果をもとに、より詳細なマッピングを行ったところ、gra-D変異株ではいずれも4番染色体下部が重複している可能性が示唆された。この領域には、葉の細胞増殖を正に制御する転写因子をコードするAINTEGUMENTA (ANT) 遺伝子が含まれる。そこで、ANTの発現レベルを解析したところ、gra-D変異株での発現上昇が確認された。ANTのこのような発現レベルの上昇とgra-D変異における細胞増殖期間の延長との関連について、現在さらに解析を進めており、その結果についても合わせて報告する