抄録
海洋性珪藻類は地球上の一次生産の25%を担う藻類であるが、汽水域にも良く適応し、広範な塩応答性を有すると考えられる。しかしこのような海洋性一次生産者の低塩環境への応答機構については報告例が無い。本研究では、海洋性珪藻Phaeodactylum tricornutumを用いて、低塩環境への応答機構を転写レベルで調べ、体系的に理解することを目的とした。通常海水塩濃度(0.5 M [Na+])で生育した細胞を低塩濃度環境(0.1 M [Na+])へ移し、生育速度を指標に低塩順化過程を低塩ショック中、低塩順化後に定義した。低塩処理後を含めた各過程からRNAを調節し、cDNA-AFLP(cDNA-amplyfied fragment length polymorphism)法により半網羅的なトランスクリプトーム解析を行った。その結果、現在34のcDNA断片において低塩応答性が確認され、発現様式は低塩誘導、低塩ショック誘導、低塩抑制の3タイプに分けられた。低塩誘導性断片にはABC transporter、SMC proteinなど輸送体を含む遺伝子が12種類、低塩ショック時誘導にはNa+/H+ antiporterなどの遺伝子が12種類、低塩抑制にはCasein Kinase II β subuunitなどシグナル伝達系を含む遺伝子が11種類得られた。これらの塩応答における機能について討論する。