抄録
高等植物の葉緑体には、アスコルビン酸ペルオキシダーゼ(APX)がチラコイド膜(tAPX)とストロマ(sAPX)に局在し、常時発生するH2O2レベルを調節している。しかし葉緑体型APXは、他のAPXアイソザイムと比較して非常に不安定である。近年、H2O2はシグナリング因子として注目されてきている。そこで、葉緑体型APXの不安定性によるH2O2の動向が細胞内レドックス制御系に及ぼす影響について解析するため、tAPXおよびsAPXの遺伝子破壊シロイヌナズナ(KO-tAPX, KO-sAPX)を単離した。野生株と比較して、KO-tAPXでは膜結合型APX活性が約70%、KO-sAPXでは水溶性APX活性が約40%低下したが、他のAPXアイソザイムおよび葉緑体に局在する抗酸化酵素の転写レベルに変化は認められなかった。野生株、KO-tAPXおよびKO-sAPXに25 uMのパラコートを噴霧した結果、野生株やKO-sAPXと比較して、KO-tAPXではパラコートに対する感受性がわずかに増加したが、顕著な差は認められなかった。よって、シロイヌナズナ葉緑体型APXの遺伝子破壊は何らかの防御機構により相補可能であることが示唆された。そこで次にレドックス制御系について詳細に解析するため、エストロゲン誘導型RNAi法によるtAPX発現の一過的抑制系を構築した。エストロゲン依存的にtAPX発現を抑制させた結果、いくつかの酸化的ストレス応答性遺伝子の発現に誘導が認められた。