抄録
植物細胞は柔軟な分化能を持つが、植物の発生期間を通じて時間や位置の情報に従って、特定の細胞に分化するように制御されている。側生器官の細胞分化はTCP転写因子により制御されており、私達はシロイヌナズナTCP3をモデルにその制御機構の解明を試みている。
まず、転写抑制ペプチドであるSRDX配列をTCP3に融合したキメラリプレッサーであるTCP3-SRDXを発現する植物が異所的なシュート形成や葉や花などが湾曲する形態異常を示すことを明らかにした。次に、TCP3の下流で機能する遺伝子の発現を解析したところ、TCP3-SRDX植物では、境界部形成や茎頂分裂組織形成に必要なCUP-SHAPED COTYLEDON (CUC)遺伝子の異所発現が認められ、その異所発現がCUCの転写レベルとmiR164を介した転写後レベルの異常であることを明らかにした。さらに、マイクロアレイ解析により、TCP3-SRDXの発現により顕著に抑制される、あるいは誘導される遺伝子を同定した。それらの中にはオーキシン応答性遺伝子や葉緑体移行タンパク質をコードする遺伝子が含まれた。トランジェントアッセイ法とクロマチン免疫沈降法を用いた解析により、TCP3が同定された下流遺伝子のプロモーター領域を介してそれら遺伝子発現を制御すると考えられた。本発表では、TCP3が制御する下流転写ネットワークについて議論する。