抄録
シロイヌナズナを用いた解析により、葉の細胞数の減少を引き起こす突然変異は、しばしば細胞のサイズの肥大を伴うことが明らかになっている。その結果、葉のサイズの減少率が、細胞数の減少率よりも小さくなるため、この現象を補償作用と呼ぶ。これまでに、補償作用を示すfugu変異株を5系統単離、解析し報告してきた。本発表では、fugu5の持つ興味深い表現型について報告する。fugu5の子葉は野生型に比べて長い形態を示し、補償作用を示すが、MS培地上での生育により、その葉形および細胞数が野生型レベルへと回復するとともに、補償作用が完全に抑制されていることが明らかとなった。そこで補償作用を抑制する培地成分を検討した結果、スクロースであることが判明した。補償作用はfugu5の子葉および第一葉でのみ誘導される。マップベースクローニングの結果からFUGU5は液胞膜に局在するAVP1、すなわちH+-ピロホスファターゼ(H+-PPase)をコードすることが明らかになった。測定の結果、fugu5のPPase活性は調べた全てのアリルで完全に消失していた。興味深いことに、野生型と比べてfugu5ではprotein bodyからcentral vacuoleへの転換が遅れることが観察された。これらの結果から、FUGU5は発芽後の成長において特に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。