抄録
高等植物の受精において、花粉管の胚嚢への誘引には助細胞から分泌される花粉管誘引物質が重要である。当研究室で行なわれたTorenia fournieriの助細胞EST解析により、多数の分泌性ペプチドが見いだされた。それらのうち、LURE1, LURE2は花粉管誘引活性を持つことがin vitro アッセイ系により明らかにされた。しかしながら、これらが植物内でも花粉管誘引に関わるかは明らかでない。
生体内におけるLUREsの機能を明らかにするため、独自に開発したレーザーマイクロインジェクション(LTM)法を用いてこれらの遺伝子の機能阻害を試みた。LTM法は、針内部に充填したレーザー吸収剤にレーザーを照射し、生じる高い熱膨張圧により、効率よくインジェクションを行う方法である。我々は、胚嚢が裸出しているというトレニアの特徴を活かし、各LUREsの翻訳およびスプライシングを阻害するように設計したモルフォリノアンチセンスオリゴを胚嚢に直接注入した。オリゴ(< 10 kDa)を注入の容易な中央細胞にインジェクションしたところ、細胞質連絡を通って助細胞へ移行することを確認した。そして、アンチセンスオリゴを注入した胚珠において、特異的に花粉管誘引率の低下がみられ、LUREsが生体内でも花粉管誘引に関わっていることが示唆された。この技術を応用した今後の展開についても議論したい。