抄録
陸上植物の葉緑体で機能する転写・翻訳装置はバクテリア起源のものが多く、緊縮応答に関わる酵素タンパク質もその一例である。我々はモデル植物のppGpp合成酵素遺伝子を複数単離し、それらのタンパク質機能を生化学的に解析してきたが、平行して、バクテリアからも新規ppGpp合成酵素遺伝子を単離し、生化学的・遺伝学的解析を進めてきた。植物からは、大腸菌ppGpp合成酵素(RelAおよびSpoT)に類似のppGpp合成ドメインに加えカルシウム結合型EF-handモチーフを有する酵素(Calcium-activated RelA SpoT Homolog, CRSH)を、枯草菌からは、ppGpp合成酵素ドメインのみからなる小分子量のppGpp合成酵素(Small Alarmone Synthase, SAS)をそれぞれ新たに見出し報告している。CRSHは葉緑体に局在し、カルシウムイオン濃度依存的にppGpp合成を司ることを明らかにし、一方、枯草菌SASに関しては、分子遺伝学的機能解析より転写制御によるストレス誘導性のppGpp合成酵素機能を示唆する結果を得ている。これらの結果は、global regulatorの別称を持つppGppの生理学的機能が、従来予想されてきた以上にグローバルであることを改めて示唆するものである。