抄録
イネのphyB変異株を連続赤色光(Rc)で育てると、クロロフィルは野生株(日本晴)の20%しか蓄積せず、葉緑体チラコイド膜の発達は抑制される。このことは、phyB特異的な赤色光情報伝達経路が存在し、これが葉緑体発達に重要な役割を果たしていることを示している。我々は、この経路に関わる因子を探索することを目的に、phyB変異株と日本晴の芽生えにRc照射し、それらの間の遺伝子発現をマイクロアレイで比較した。その結果、クロロフィル合成の鍵酵素であるMgキラターゼHサブユニットをコードする遺伝子(OsChlH)の発現と薄緑葉表現型との間に相関がある可能性が示された。そこで、暗所で8日間育てたphyB変異株と日本晴にRc照射し、OsChlHの発現量、クロロフィル量、その前駆体量を経時的に測定して比較した。Rc照射開始3時間までは、これら3つに有意な差が見られなかったが、Rc照射6時間目に、phyB変異株ではOsChlHの発現が低下した。Rc照射9時間目のphyB変異株では、Mgキラターゼの生産物であるMg protoporphyrin IXの含量が激減した。このクロロフィル前駆体の激減に続いてクロロフィル蓄積量が低下した。これまでの結果は、OsChlH遺伝子発現がphyB変異株で特異的に低下し、これが薄緑葉表現型の誘因となっていることを示している。