抄録
イネは、土壌中の窒素を根で吸収、同化しており、その機構は様々な因子によって制御されている。イネは、環境中の窒素を効率的に利用するために、窒素の供給量に応じて根の形態を変化させる。KoshihikariとKasalathに由来する染色体断片置換系統群を用いた解析から、低NH4+濃度で根長を支配しているQTLを、第8染色体の長腕側に検出した。このQTLがKasalath型であるSL-225と遺伝背景であるKoshihikariを、5-500 μM NH4+濃度で栽培し、根長を比較した。SL-225の根長は、供試した全てのNH4+濃度でKoshihikariよりも有意に増加しており、特に5 μM NH4+濃度で、根長が大きく増加した。同位体で標識したNH4+を用い窒素吸収量を測定したところ、50 μM NH4+濃度で、SL-225の窒素吸収量はKoshihikariよりも減少していた。QTL原因遺伝子の同定を目的として、SL-225をKoshihikariに戻し交配し、F2 、F3世代を作出すると共に、大規模集団からの染色体組換え系統の選抜を行った。これらの系統群を用いて、少なくとも2つのQTL原因遺伝子の存在を確認し、より効果の強いQTLを第8染色体の長腕末端付近、約40 kbの領域に絞り込んだ。