抄録
シロイヌナズナを含む形質転換植物は,植物科学研究の発展に大きく貢献している.形質転換植物の選抜には原核生物由来の薬剤耐性遺伝子が広く用いられているが,薬剤耐性遺伝子水平伝搬による環境破壊が問題視されている.また,従来法による形質転換植物作製はホモ接合系統を得るまでに長い時間を要するという欠点がある.私達は上記の欠点を克服した新しい選抜法を確立し,FAST法(Fluorescence-Accumulating-Seed Technology法)と命名した.この新手法開発の端緒となったのは「オレオシンGFP融合タンパク質(OLE1-GFP)を発現する種子は蛍光を発する」という発見である.このOLE1-GFPをFAST法の選抜マーカーとしてを用いた.FAST法では,実体顕微鏡下でGFP蛍光を発する種子を選抜することで,形質転換第一世代(T1)の種子集団からT1ヘテロ接合種子を選抜することが可能になる.さらに,ホモ接合系統,ヘテロ接合系統,野生型が共存する形質転換第二世代(T2)の種子集団からGFP蛍光を強く発する種子を選び取ることで,99%以上の確率でT2ホモ接合種子を選抜することに成功した.FAST法は薬剤が不要なだけでなく,無菌操作や植物体を大量に育成する必要がない,簡便な方法である.FAST法は基礎研究だけでなく,安全な遺伝子組換え作物の作製や維持に用いることができると期待される.