抄録
染色体の高次構造は染色体の複製や組換え、近傍遺伝子の転写など、核内で行われる様々な事象に影響を及ぼしている。ハツカダイコンのグルタミン合成酵素をコードするGln1;1遺伝子は、ハツカダイコンゲノム上では非常にA/Tに富む領域に埋め込まれる形で存在しており、こうした構造がプロモーターの正常な発現制御に不可欠であることが形質転換シロイヌナズナを用いた研究から明らかになっている(第42回大会)。その後、Gln1;1遺伝子のプロモーターアッセイを継続して行ってきた結果、上記のA/Tリッチな構造領域がシロイヌナズナゲノム中に挿入されると、高い確率で形質転換体の形態異常を引き起こすことが示された。観察された異常は、茎頂分裂組織の消失や形態異常、分枝様式の異常、花や葉、茎の形態異常など多岐にわたっていたものの、いずれも細胞分裂の制御の攪乱が疑われた。また、異常の重篤度は挿入された構造領域のコピー数には相関を示さず、ゲノム上の挿入位置が形態異常の発生に関係する可能性が示唆された。こうした結果に基づき、現在はGln1;1遺伝子を含むA/Tリッチな領域が、シロイヌナズナのゲノム上にある何らかの機能領域近くに挿入された場合に、その働きと干渉を起こすことにより植物の形態異常を引き起こすのではないかと仮説を立て、研究を進めている。