抄録
エチレン生合成の律速段階を担うACC合成酵素 (ACS)は、転写段階だけでなく、翻訳後の制御も受けている。我々はこれまでに、トマト傷害誘導性ACC合成酵素LeACS2が翻訳後直ちにリン酸化されること、細胞内ではほぼ全ての分子がリン酸化型として働くこと、脱リン酸化型の半減期がリン酸化型よりも短いことを明らかにした。これらのことは、ACSの代謝回転速度が脱リン酸化段階で決定されていることを示唆している。この制御機構を明らかにするために、我々はACSの脱リン酸化を担うプロテインホスファターゼの同定を試みてきたが、今回は、エチレン生成量が増加するシロイヌナズナ変異体のうち、プロテインホスファターゼ2Aの調節サブユニットに変異を持つrcn1に着目した。野生型およびrcn1の黄化芽生えをオーキシン処理すると、ACSアイソザイムのうちAtACS4のmRNAが誘導され、ACC含量およびエチレン生成量の増加が確認された。しかし、誘導されたAtACS4のmRNA量が同程度であるにもかかわらず、ACC含量およびエチレン生成量は、rcn1の方が野生型よりも高かった。このことは、両者のエチレン生成量の差異が、AtACS4の代謝回転速度の差異に起因することを示唆している。これらのことを基に、エチレン生合成調節におけるRCN1の役割について考察する。