抄録
イネ品種の花成時期の多様化は稲作地域の拡大や育種技術の発展に貢献した重要な形質の一つである。一般的にイネは短日条件下で花成が誘導される事が知られている。これまでの分子遺伝学的解析から、花成誘導における分子経路が明らかにされつつある。しかし、栽培イネ品種における多様な花成時期をもたらす分子的な原因については未だ知見が乏しいのが現状である。そこで本研究では、栽培イネ64品種から構成されるイネコアコレクションを用い、栽培イネにおける花成時期の多様化機構を明らかにする事を目指している。
これまでに、各花成関連遺伝子の発現量と花成時期との関係を調べたところ、Hd3a遺伝子の発現量と花成時期の間に強い相関関係があることを明らかにした。また、それぞれの花成関連遺伝子に関して64品種全てにおけるシークエンス解析を行った結果、Hd1ではタンパク質機能に重要とされるCCTドメインの一部または全てを失うような変異が多く見つかった。さらにこのHd1アリルの多様性は、花成時期及びHd3a発現量のそれぞれとの間に相関が見られた。また同様に、Hd3aプロモーター領域における塩基多型や、Ehd1における遺伝子発現の多様性においてもHd3a発現量および花成時期の多様性への関与が確認されている。以上を踏まえ本発表では、花成関連遺伝子の品種間多型が栽培イネ集団での多様な花成時期に与える影響について考察したい。