抄録
鉄は全ての生物にとって必須の無機元素であり、生物が成育する上で鉄の利用性は非常に重要である。鉄は生体内においてヘムや鉄硫黄クラスターに取り込まれ、多くのタンパク質の補因子として働く。先行研究により細胞レベルでの鉄代謝においてミトコンドリア内鉄硫黄クラスターの合成・輸送が重要な役割をもつことが示唆された。本研究では植物の鉄代謝について新たな知見を得るためイネのミトコンドリア内鉄硫黄クラスター形成に関わると考えられるIsu (Iron-sulfur cluster assembly U) 遺伝子の機能解析を行った。配列の相同性に基づき、イネにおいてIsuをコードすると考えられる2個の遺伝子をOsIsu1、OsIsu2とした。酵母細胞においてOsIsu1は、ミトコンドリア内の鉄ホメオスタシスを維持するという内生のIsuの機能を相補した。タマネギ表皮細胞において、OsIsu1:GFP融合タンパク質は他種のIsuと同様にミトコンドリアに局在した。シロイヌナズナにOsIsu1プロモーター:GUSを導入すると、鉄の吸収・輸送が盛んであると考えられる若葉と維管束においてGUS活性が見られた。シロイヌナズナにおいて35SプロモーターによりOsIsu1を発現させると鉄源の少ない培地上での成育が改善された。以上より、植物体全体の鉄代謝におけるミトコンドリア内鉄硫黄クラスター形成の重要性が示唆された。