抄録
アブシジン酸(ABA)は、気孔閉鎖を誘導し、蒸散による水分放出を抑制する働きを持つ植物ホルモンである。ABAは、孔辺細胞における複雑なシグナル伝達機構を介して気孔閉鎖を誘導しており、そこには様々なシグナル因子が関わっていることが知られている。ヒスチジン・アスパラギン酸リン酸リレー情報伝達系で働くヒスチジンキナーゼ(HK)は、植物においてエチレン受容体やサイトカイニン受容体などとして機能している。今回我々は、シロイヌナズナのHKの一つであるAHK5を破壊した変異体であるahk5-1が、孔辺細胞におけるABAシグナリングに関して高感受性の表現型を示すことを報告する。ahk5-1変異体では、0.1 μMという低濃度のABAで処理した際に野生株よりも大きな気孔口径の減少が観察された。また、気孔口径の制御に関わる内向きカリウムイオンチャネル(Kinチャネル)活性に関してパッチクランプ法を用いて調査したところ、ahk5-1変異体では、ABAによるKinチャネル活性抑制が強められていることが明らかとなった。以上の結果は、シロイヌナズナ孔辺細胞中のABAシグナリングにおいてAHK5が負の制御因子として機能していることを示唆している。