抄録
植物の蒸散は主に葉の表面に存在する気孔を通して行われるため、植物個体の生育や生存には、気孔の開閉と気孔の分化の双方が調節され、成長段階や周囲の環境条件に適合した気孔の数や密度のバランスが保たれる必要がある。アブシジン酸(ABA)は水分の不足を感知して速やかに気孔を閉鎖させることが知られている。我々は前回の発表で、ABA非感受性であるabi1-1及びABA欠損株であるaba2-2変異体では野生型に較べて気孔密度が増大しており、ABAが気孔分化を抑制している可能性を報告した。今回行った経時観察の結果、野生型の葉の形成過程においては加齢によるABA量の増加に伴い気孔の分化が抑制され、表皮細胞が伸長することで葉面積が増大するが、aba2-2とabi1-1では野生型に比べて気孔が分化する期間が長期間に渡ることで表皮細胞が伸長できる期間が短縮され、植物体が小型化する要因となっていることがわかった。aba2-2における成長抑制はABAを与えることで回復したため、ABAは気孔閉鎖といった蒸散量の調節に関わるだけでなく気孔の分化を抑制することで、葉の成長段階が転換する時期の決定に関わっている可能性が示唆された。