抄録
酸素発生型光合成生物の水分解反応は光化学系(PS)IIの酸素発生複合体において4原子のMnが関与する光駆動サイクル(S状態サイクル)により行われることが知られている。近年、PSIIのX線結晶構造解析からMnクラスターの配位子となり得るアミノ酸残基が示唆されているが、それらの反応過程への関与について詳細は明らかにされていない。本研究ではシアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803においてCP43の354位グルタミン酸(CP43-Glu354)をグルタミンに置換した変異体を作製し、酸素発生反応過程についてフーリエ変換赤外(FTIR)法を含む種々の分光法による解析を行った。変異体の酸素発生活性は野生型の約20%に低下した。閃光照射後の遅延蛍光強度の振動パターンから、この変異体ではS3状態以降の遷移が起こらないことが示された。閃光誘起FTIR差スペクトル解析から、CP43-Glu354がMnクラスターの配位子として機能し、S1→S2遷移においてその配位構造が変化することが示された。さらに、この遷移で酸化されるMnに水分子が結合していることが明らかになった。一方、S2→S3遷移において酸化されるMn原子または配位子は、CP43-Glu354と直接的な相互作用をしないことが示された。これらの結果を基に酸素発生反応過程におけるCP43-Glu354の関与について考察する。