抄録
地衣類は菌類と藻類が共生して光独立栄養的に生育し、極度の乾燥環境でも生存可能である。乾燥時には光化学系II(PSII)が吸収した光エネルギーはただちに消光され、阻害を防ぐと考えられてきた。最近、740 nmに蛍光を示すクロロフィル(Chl740)が緑藻Trebouxiaを共生する地衣類のPSII内部で消光分子として機能すると提唱された[1]。我々は乾燥地衣類生細胞の4-300 Kでの超短時間領域の蛍光減衰をアップコンバージョン法とストリークカメラを組み合わせて測定し、Trebouxia型地衣類におけるChl740の有無、Chl740への励起エネルギー移動、蛍光消光速度、Chl740の結合部位を検討した。Trebouxia型地衣類ムカデコゴケ、ウメノキゴケでレーザー照射後1 ps以内に立ち上がり数ピコ秒で減衰するChl740の蛍光が観測された。結果をもとに、Chl740を加えたPSII内部の励起エネルギー移動過程をモデル化し、蛍光減衰を再現した。Chl740への励起エネルギー移動速度、消光速度を見積もり、Chl740が消光分子として機能する可能性が示された。同様の測定をCoccomyxa型、Trentepohlia型地衣類でも行い、得られた知見について報告する。
[1] Veerman et al., Plant Physiol., 145, 997-1005 (2007)