抄録
カナダ北極海沿岸・ボーフォート海南東部海域には春から夏にかけて、マッケンジー川から淡水の流入が起こる。また、気温の上昇などに伴う海氷の融解も、海洋環境に大きな変化をもたらす。この季節的な海洋環境の変動によって、光強度、塩濃度、温度、栄養塩濃度などの微細藻類の生育環境が変化する。本研究では、夏季の生育環境の劇的な変化のもと、微細藻類の光合成特性を明らかにするため、ボーフォート海南東部海域に生息する微細藻類を対象として、2004年5月から8月に測定を行った。表層(5 m以内)から採集した植物プランクトンの光合成特性をPulse-Amplitude-Modulation (PAM) 蛍光法を用いて測定した。その結果、塩濃度や栄養塩濃度、温度などの変化よりも、採集時の光強度の違いが調査海域における表層の植物プランクトンの光合成特性に影響してた。光強度の高い環境にあった植物プランクトンの最大光合成量子収率(Fv/Fm)は低く、また、Fv/Fmが低いと光合成能(rETRmax)、NPQの最大活性(NPQmax)が減少していた。つまり、マッケンジー川沖における表層の植物プランクトンは高い光強度による光合成の抑制を受けている事が明らかとなった。
なお、本研究は、Canadian Arctic Shelf Exchange Study (CASES)の一環として行われたものである。