抄録
光化学系Iサイクリック電子伝達は、発見以来、生理機能が長い間不明であった。近年私たちは、シロイヌナズナの変異株の解析からこの電子伝達が光合成と葉緑体の光阻害回避の両方に必須であることを明らかにした。この重要性から考えて、サイクリック電子伝達の機能はイネでも保存されていると考えられる。実際、シロイヌナズナにおいてサイクリック電子伝達に関与する遺伝子は、その多くがイネにおいても保存されている。本研究は、単子葉植物であり作物であるイネにおけるサイクリック電子伝達の機能をシロイヌナズナと詳細に比較することを目的とする。
サイクリック電子伝達経路にはPGR5依存の経路とNDH依存の経路がある。シロイヌナズナCRR6(CHLORORESPIRATORY REDUCTION 6)はNDH経路に必須であり、crr6変異株はNDH複合体を蓄積できない。CRR6はイネでも保存されている。そこで私たちはOsCRR6のTos17遺伝子破壊株を取得し、光合成解析を行った。イネcrr6変異株はシロイヌナズナcrr6と同様、作用光照射後の一過的なクロロフィル蛍光の上昇(NDH活性)を欠いていた。また、NDH複合体の蓄積も見られなかった。このことから、イネにおいてもNDH経路が保存されていることが明らかとなった。PGR5依存の経路については、OsPGR5のRNAi株を作成中である。