抄録
植物は環境変化に応答し、光合成を精密に制御している。光化学系Iサイクリック電子伝達(CEF-PSI)の生理的機能として、チラコイド膜間ΔpH形成を介したATP合成制御および熱散逸誘導による、環境変動に対する光合成制御が提唱されている。これまでに、CEF-PSIにおけるPSIから派生した電子のプラストキノンへのバックフローの経路として、PGR5依存経路とNAD(P)H dehydrogenase依存経路の2つの経路が存在し、高等植物では、PGR5依存経路がCEF-PSI主要経路として機能していることを明らかにしている。今回、環境変化に対する遺伝子発現応答へのCEF-PSIの関与を明らかにするために、シロイヌナズナpgr5変異株と野生株の生育[CO2]変動時のロゼッタ葉の遺伝子発現変化を、マイクロアレイにより比較解析した。
植物個体を高[CO2] (=2,000 ppm)で10日間生育後、一気に大気[CO2]までCO2濃度を低下させた時に観察される一過的な遺伝子発現応答は、両株で同様であった。しかしながら、野生株では大気[CO2]生育時にのみ誘導される遺伝子群が、pgr5変異株では高[CO2]生育時にも発現し、[CO2]変動応答性を示さず構成的に発現していた。この結果は、PGR5依存CEF-PSIが、高[CO2]馴化過程の遺伝子発現制御に関与する可能性を示している。