抄録
葯発達過程における植物ホルモンの役割を包括的に理解するため、イネの葯における各種植物ホルモン量の測定を行うとともに、小胞子/花粉およびタペータムにおける植物ホルモン関連遺伝子群の発現をlaser-microdissectionと44Kマイクロアレイを組み合わせたLM-array法により網羅的に解析した。
活性型サイトカイニンおよびABAの成熟葯における内性量は他の器官に比べ大きな差は認められなかったが、IAAは他の器官より最低でも20倍以上、生物活性を有するジベレリン(GA1およびGA4)は最低でも5倍以上多く蓄積していた。
上記の植物ホルモンに加え、ブラシノステロイド, エチレン, ジャスモン酸の合成・シグナル伝達にかかわる因子をコードする遺伝子群の小胞子/花粉およびタペータムにおける発現を葯の発達ステージを追って解析したところ、それぞれの植物ホルモンにおいて特徴的な発現パターンが認められた。特にオーキシンとジベレリン(GA)の合成に必要な遺伝子群の発現は花粉の2核期から3核期にかけて顕著に増加しており、オーキシンとGAが花粉成熟期あるいはその後の発芽や花粉管伸長に重要であることが示唆された。一方、GAのシグナル伝達因子をコードする遺伝子群は小胞子やタペータムにおいて高い発現が認められた。本研究の一部は、文科省特定領域研究「植物ゲノム障壁」の支援をうけて実施された。