抄録
スギ(Cryptomeria japonica D. Don)は、わが国の主要な林業樹種であり日本人の生活に深くかかわってきた。遺伝子組換え技術による特定形質の付与は、より社会から求められる品種の作出を実現すると期待される。しかし、組換え体を野外に出すにあたり導入遺伝子の同種野生植物への拡散が懸念されている。その媒体となる花粉を作らなくすればその可能性は軽減される。さらにスギの雄性不稔化はスギ花粉症の緩和にもつながる。
シダレカンバ等いくつかの植物種において、花器官特異的な発現を司るプロモーターにRNase等の遺伝子をつないだ構築物を導入することによって雄性不稔個体の作出に成功したことが報告されている。我々はスギにおいて同様の手法を試みるために、雄花形成過程の異なる3時期(花粉分化初期、花粉四分子期、成熟花粉期)を選択しサブトラクション法をおこない、雄花特異的かつ時期特異的発現を示す7遺伝子の単離に成功した。これら遺伝子の転写調節領域を単離するためにTAIL-PCR法をおこなった。得られた領域の機能解析をおこなうためにGUS遺伝子を融合しアラビドプシスに導入した。現在アラビドプシスにおけるGUS遺伝子の発現組織の解析を進めている。
本研究の一部は、農林水産省「遺伝子組換え生物の産業利用における安全性確保総合研究」の一環としておこなった。