抄録
青色光受容体 phototropin には、PHOT1 と PHOT2とがある。過去、phot1phot2 二重変異体では、本葉が背軸側へカールする表現型が報告されているが、その制御機構は不明である。我々は、phot1phot2 変異体の本葉を用いて組織学、生理学的な解析を行った。phot1phot2 変異体における本葉のカールは、向背軸の偏差生長が原因として考えられる。そこで、本葉表皮細胞のサイズを計測した結果、野生体比べてphot1phot2 変異体は、向軸側では正常であるが背軸側では小さいことが解った。さらに、PHOT2-GFP を表皮細胞特異的プロモーターにより発現させると、扁平性の回復が認められた。これらの結果から、phototropin は青色光に応答して表皮細胞のサイズを制御することにより、葉の扁平性を調節していることが示唆される。一方、柵状組織細胞の向背軸に沿った極性伸長は、PHOT2 により強く促進される。葉肉細胞における細胞体積を、プロトプラストを単離して計測した結果、phot1phot2 変異体の値は野生体と同一であった。即ち、柵状組織において、PHOT2 は細胞成長には関与せずに、細胞極性伸長を制御していると考えられる。これらの結果を踏まえて、本葉扁平性と柵状組織細胞の発達に関与する phototropin の、組織特異的な生理的機能について議論する。