抄録
植物は塩ストレス下で活性酸素(ROS)を生成する。ROSは塩ストレス応答のシグナル因子である一方で、細胞毒性を持つためその過剰な蓄積は細胞傷害の原因となる。それゆえ、植物の塩ストレス適応において、ROSの生成と除去の制御が重要である。我々が単離したシロイヌナズナ変異体itn1は、塩ストレス下におけるROSの蓄積が低下した変異体であり、高い耐塩性を示す。この変異体では、ROS生成酵素の遺伝子群の塩ストレスおよびアブシジン酸(ABA)による発現誘導が野生株よりも低下していた。このことから、ITN1遺伝子は、塩ストレス下においてABA経路を介してROS生成を促進させる制御因子をコードしている可能性が示唆された。itn1変異体においては、塩ストレス下での過剰なROSの蓄積が回避されることにより細胞障害が緩和されていると考えられる。マッピングの結果、ITN1は膜貫通型アンキリンリピートタンパク質であることが明らかになった。アンキリンリピートは他のタンパク質との相互作用を担うドメインとして知られている。ITN1タンパク質の分子的機能を明らかにするために、酵母ツーハイブリッド系を用いてITN1と相互作用する因子の探索を行った結果、複数の候補タンパク質を見出した。本発表では、ITN1が関与する塩ストレス下でのROS生成制御の新たな機構について考察する。