抄録
砂漠近縁に生育する羊草は、耐塩性の高いイネ科植物である。通常条件下で39 μmol/gFWものグリシンベタイン (GB) を蓄積し、300 mMの塩ストレス処理でその量が115 μmol/gFWまで増加することがわかった。GB合成経路の最終段階を触媒する酵素であるベタインアルデヒド脱水素酵素を単離した。C 末端にペルオキシソーム移行シグナルを持つLcBADH1と、移行シグナルを持たないLcBADH2の2種類に分類された。遺伝子発現を解析した結果、LcBADH1よりも、LcBADH2の方が通常条件下でも恒常的に発現しており、さらに塩ストレスにより発現が誘導された。LcBADH2をタンパク質発現用ベクターに組み込み、組み換えタンパク質を得た。さまざまなアルデヒド類に対するKm値を測定したところ、ベタインアルデヒド以外にも高い親和性を示すアルデヒド類が見つかった。それらの基質は、ポリアミン代謝や脂質のβ酸化に関与するカルニチン合成経路の中間物質であるため、羊草のベタインアルデヒド脱水素酵素が通常条件下および塩ストレス下でさまざまな代謝に関与している可能性が示唆された。