抄録
高等植物における栄養や環境汚染物質等の動態を可視化することは生物学の分野に多大な貢献があった。その代表的手法には、ラジオアイソトープをトレーサーとして用い、その動態をイメージングすることで植物体内の物質の分布を画像化する、オートラジオグラフィ、ポジトロンイメージング法などがある。しかしこれらの方法では同時に画像化できる測定対象の元素は1種類に限られるため、例えば複数の元素の同一環境下・同一個体内における拮抗作用などをイメージングすることは困難である。そこで、ガンマ線を放出する複数の元素を同時にイメージングできる装置、コンプトンカメラの開発が原子力機構、宇宙機構、群馬大学によって行われている。最先端の半導体検出器を用いて試作されたコンプトンカメラと放射線源で、複数種のラジオアイソトープの同時撮像に成功し、本装置によって複数元素の同時イメージングが可能である事が示された。我々はこのようなイメージング技術を開発することで、組織~個体レベル、秒~日レベルでの多元素の分布状態の変化について、一個体から非侵襲的に情報を得るという研究手法の確立を目指している。植物分子イメージングにおける新規方法論として、本手法の可能性について本会で討論したい。