抄録
植物培養細胞は様々な研究に利用される重要なリソースである。培養細胞を維持する際、細胞株の保有する形質の変化が懸念されている。そこで、培養細胞の客観的・定量的な評価手法を確立するとともに、細胞株の長期的な安定性の実態を明らかにすることを目的に、トランスクリプトーム解析による細胞株の分類を検討した。公共データベースから取得したシロイヌナズナ培養細胞7株およびAtGenExpressのdevelopmental seriesのデータセットを用いて、各試料の分類を行った。教師無し階層クラスタリングおよび主成分分析の結果、培養細胞は由来する器官に関わらず植物体と異なるクラスターに分類された。このことは培養細胞の脱分化状態を反映するものと考えられる。さらに、各細胞株は同一のグループにクラスタリングされたが、由来する器官や遺伝的バックグラウンドの違いによる傾向は認められなかった。自己組織化マップおよび機械学習による分類でも同様の結果が得られた。このことから、遺伝子発現プロファイルを用いた培養細胞株の分類が可能であることが示唆された。今後、定期的な検査を行うとともに、分類性能の検証が必要である。