抄録
マメ科植物と根粒菌との共生窒素固定において,根粒菌が分泌するNod因子が植物に作用して誘導される一連の初期応答に引き続き,根粒菌は根毛先端部から侵入し感染糸と呼ばれる環状構造を経由して皮層細胞層の奥に到達する.宿主植物は根粒の数を制限することで窒素固定とエネルギー消費のバランスをとっているが,最終的に形成される成熟根粒よりも多くの感染糸が形成されることから,宿主植物が設けるチェックポイントは感染糸形成と根粒原基形成の両方の段階に存在すると考えられる.しかし,近年解明が進んでいる共生初期過程とは対照的に,根粒数の制御を含めた感染・根粒形成過程の分子機構の解明は大きな課題である.我々は,根粒形成を抑制することが知られているエチレンと,根粒形成における役割が様々に論じられているフラボノイドの機能の解明を手がかりにこの課題に取り組んでいる.本講演では,ミヤコグサ根粒菌がもつエチレン生合成前駆体の分解酵素であるACCデアミナーゼの役割と,フラボノイドの分子遺伝学的機能解明の前提となるフラボノイド生合成遺伝子の解析について述べる.また,感染糸数が異なる標準系統B-129 GifuとMG-20 Miyakojimaから作製された組換え自殖系統を用いて実施した,感染糸数に関するQTL解析および他形質との相関解析の結果についても紹介する.