抄録
窒素固定共生に関わる根粒菌遺伝子については、1980年代からの分子遺伝学的解析により数々のものが明らかにされてきた。単独の変異で共生成立が破綻する因子のほとんどが補足されてきたと言って過言ではない。しかし、主要因子以外の共生を補助的に支える因子の多くが見逃されてきた可能性がある。私達はゲノミクス技法により新規な共生補助因子を同定しつつある。
動植物の病原細菌には、3型分泌系と呼ばれる細菌細胞内膜、外膜を貫通する複合体により、宿主機能を制御するエフェクターを分泌するものが知られている。ミヤコグサ根粒菌を含めた根粒菌の中にも3型分泌系を持つものが見出されている。しかし、病原細菌に比べると根粒菌3型分泌系に関する知見はごく限られており、分泌装置の構造やエフェクターの実体はほとんど明らかにされていない。私達は、根粒菌遺伝子の標的破壊とマーカーレス化法を確立し、トランスポゾンによるランダム破壊を併用して、エフェクターの探索を行い、Lotus属内での種特異性を決定する因子を同定している。また、配列特異的リコンビナーゼを一次レポーターとして二次レポーター遺伝子の機能転換を行わせるRIVET法を改良してきた。この改良RIVETを用いたスクリーニングによって、共生成立途上で一過的に発現する遺伝子として同定したものの中には、上記のエフェクターが含まれていた。これらの現状について紹介する。