抄録
気孔は大気中のCO2濃度を感知してその開度を調節し、高CO2条件では閉じ、低CO2条件では開く。従って気孔にはCO2をシグナルとして感知し、細胞内にシグナルを伝達するメカニズムの存在が示唆されているが、その分子的実体の多くは不明である。そこで我々は、CO2依存的な葉面温度変化を指標に、多数のCO2非感受性シロイヌナズナ変異株を単離し解析を進めてきた。これまで単離された変異体は、CO2濃度に関わらず常に気孔が開いたままの変異体、もしくは常に閉じたままの変異体に大別されていたが、cdi6 変異体はそのどちらにも属さず、低CO2にも高CO2にも応答しない、新しいタイプの変異体であることが分かった。その原因遺伝子は、植物独自の転写因子をコードしていた。また孔辺細胞の核で特異的に発現することが分かった。これらの結果より、CDI6はCO2応答性に関わる新規の気孔特異的な転写因子であると考えられた。そこで、CDI6制御下にあるターゲット因子を明らかにするため、野生株とcdi6 変異体の孔辺細胞における遺伝子発現をマイクロアレイ解析により定量、比較を行った。その結果、気孔開閉調節因子や気孔形成因子を含む100近くの遺伝子の発現がcdi6 変異により大きく変化しており、また気孔で強く発現する複数の遺伝子が発現低下していた。CDI6は気孔での遺伝子発現制御に重要な役割を果たしていることが示唆された。